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Friday, October 14, 2022

人の「ミニ脳」をラットに移植、神経回路が結合 米研究 - 日本経済新聞

米スタンフォード大学の研究チームは、人のiPS細胞から作った「ミニ脳」を生後間もないラットの脳に移植し、神経回路を結合させることに成功したと発表した。ミニ脳はラットの成長とともに脳内で大きく複雑な構造に変化した。実験手法は精神疾患のメカニズムの解明や治療法の開発に役立つ可能性がある。研究成果は英科学誌ネイチャーに掲載された。

研究チームは人由来のiPS細胞を培養し、大脳皮質の立体構造を再現した直径数ミリメートルのミニ脳を作った。このミニ脳を生後数日のラットの脳に移植した。実験には免疫不全のラットを用いたため、ミニ脳に対する拒絶反応は起こらない。

移植から6カ月後、ミニ脳はラットの脳の3分の1程度を占めるまでに成長した。人のミニ脳とラットの脳の神経細胞は互いに結合し、神経回路を形成した。

ラットのヒゲに空気を吹きつけて刺激を与えると、ラット脳内にあるミニ脳の神経細胞が活性化した。レーザー光を使って神経細胞の活動を制御する「光遺伝学」の手法を用いると、ミニ脳を光で刺激しながら訓練することで、ラットの学習行動を引き起こすこともできた。同大のセルジュ・パスカ教授は「移植した人の神経細胞が動物の行動に影響を与えられることを実証できた」としている。

チームはさらに、自閉症やてんかんと関連がある珍しい遺伝性疾患「ティモシー症候群」の患者の細胞からミニ脳を作った。ラットの左右の脳の片方に患者のミニ脳、もう片方に健常者由来のものを移植して比較すると、患者のミニ脳の神経細胞は小さく、周辺の細胞と連結する構造も少なかった。実験手法は統合失調症など他の病気の研究にも応用できる可能性があるという。

動物に人の細胞や組織を移植する研究は以前からあるが、脳の場合は倫理面での課題も指摘される。ドイツのマックス・デルブリュック分子医学センターのアグニエシュカ・リバク・ウォルフ博士は「移植によって動物が人のような認知機能を持つことにならないかなど倫理的な懸念がつきまとう。ミニ脳は研究に大きな進歩をもたらすが、利益とリスクの間の妥協点を慎重に見いだす必要がある」と指摘する。

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