日本車では以前から、下から手を入れるフラット型(フラップ型)のドアハンドルが主流でしたが、とくにドイツ車は、上からでも下からでも手を入れて握る「グリップ型」のドアハンドルが多く存在していました。しかし最近、ドイツのプレミアムブランドでも、フラップ型や走行中は格納されるようなドアハンドルが多く登場しています。その理由はなんでしょうか。
10年ぶりにフルモデルチェンジした新世代「ミニ・クーパー」のドアハンドルに注目
2024年3月1日、日本で新型「ミニ・クーパー3ドア」が発表されました。
新型ミニ・クーパー3ドアは、従来の「ミニ3ドア」の後継モデルとなります。今回登場した新型モデルで4世代目のモデルとなり、およそ10年ぶりのフルモデルチェンジとなります。
今回のミニ・クーパー3ドアは、ガソリンモデル2グレードに加え、EV(電気自動車)2グレードを同時に用意したことがトピックとなります。
全面改良して進化したとはいえ、丸目のヘッドライトやウエストラインの高いロングキャビンなど、ひと目で“ミニ”とわかるデザインは健在です。
ただし、その外装デザインをよくチェックすると、ミニ・クーパーE/ミニ・クーパーSEは、ドアハンドルがこれまでの「グリップ型」から、下から手を入れて引き上げる「フラップ型(フラット型)」になっているのがわかります。
じつは2023年11月に日本に上陸した、ミニ次世代モデル第1弾となる新型「ミニ・カントリーマン」も、同様にフラップ式のドアハンドルを採用しています。
1959年に登場し、およそ40年もの間生産されていたクラシックMiniをモチーフとしてBMWが開発、2002年に登場した新生ミニはグリップ型を採用していました。
そこから2006年に登場した2世代目、2013年に登場した3代目も同様のドアハンドルを採用していました。これはミニ3ドアに限らず、ミニ・クラブマンやミニ・クロスオーバーなど、これまでのミニシリーズはすべてグリップ型のドアハンドルでした。
近年、このようにドアハンドルのデザインにも新しい傾向が見られます。それはなぜなのでしょうか。
エクステリアデザインを描くとき、ドアの外側に付くアウタードアハンドルは、デザインのひとつのポイントになります。ドアハンドルも含めてカッコ良く見せるのがカーデザイナーの腕になります。
1990年代は輸入車を中心に、多くのクルマがグリップ型の「バータイプ」を採用していました。細いバーハンドルは、流れるようなデザインにもよく似合います。
バータイプを早くから多くのモデルに採用していたメルセデス・ベンツは、事故で崖の下に落ちたクルマを引き上げるときに、4つのドアハンドルをロープで持ち上げればその車重に耐えられる、と言われていました。
たしかにバータイプのドアハンドルは、指1本か2本引っ掛けるだけでも開けることができますし、手を上から握っても下から握っても開けることができるので、日常の使い勝手が良いので筆者は気に入っていました。
しかし、ここ最近はフラットタイプが多くなってきました。
従来はグリップ型のドアハンドルだったのに、新型となってフラットになるドアハンドルを採用しだしたのは、新型ミニだけではありません。
メルセデス・ベンツは、まもなく2014年1月に日本に上陸した新型「Eクラス」だけではなく、新型「Sクラス」から走行中はボディとフラッシュサーフェースになるドアハンドルになり、最新の電気自動車「EQE」や「EQS」も同じフラットタイプになっています。
ポルシェ「911カレラ」も、最新型はバータイプからフラットタイプになっています。閉まっているときはボディに埋まっていますが、ドアを開けるときは持ち上がってくるのでそれを引くタイプです。
テスラはオリジナルモデルとして製造された「モデルS」からフラットタイプのドアハンドルを採用しています。
その後に続々と追加された「モデルX」、「モデル3」、「モデルY」も、すべてがボディ表面に埋め込まれる完全なフラッシュサーフェースのフラットタイプになっています。
実は新型「ミニ・クーパー3ドア」にはフラップ型とグリップ型ドアハンドルが混在!?
BMWも、従来は基本的にバータイプのドアハンドルだったものが、新型「5シリーズ」だけではなく最新型EVの「iX」、「i4」や「2シリーズクーペ」、そして新型「7シリーズ」もグリップ型のバータイプからフラットなフラップタイプになりました。
BMWの場合、ボディ表面と完全なフラッシュサーフェースになるのではなく、下から指を差し込むスペースが残されています。
iXや7シリーズの場合は、そのスペースから指を入れ裏側のボタンを押すタイプです。2シリーズクーペや2シリーズアクティブツアラー、i4は、開いたスペースから指を入れ、フラップを引き上げて開けるタイプになっています。
新型ミニ・クーパー3ドアや新型ミニ・カントリーマンのデザインも、おそらくこのBMWの流れに沿う形といえるのではないでしょうか。
ただし、面白いのは、日本において登場した新型ミニ・クーパー3ドアは、EVモデルの「ミニ・クーパーE」と「ミニ・クーパーSE」がフラップ型ドアハンドルを採用しているのに対し、ガソリンモデルの「ミニ・クーパーC」と「ミニ・クーパーS」はグリップ型ドアハンドルで登場したことです。
これには理由があり、今回登場した新型ミニのEVモデルが新開発された専用プラットフォームを採用したのに対し、エンジン車は従来型をベースに改良されたモデルとなるためです。そのため、同じ新型ミニ・クーパー3ドアに、パワートレインの違いで2つのドアハンドル形状が混在するという珍しい状況になっています。
バータイプのドアハンドルの新型車もまだまだ多く存在します。たとえば2023年に日本に上陸したメルセデス・ベンツ新型「GLC」やフィアット新型「ドブロ」、またEVでも2024年に日本に登場する予定のVW新型「ID.BUZZ」などはグリップ型を採用しています。
しかし多くのEVやスポーツカーなど、時代の最先端をいこうとするクルマが率先してフラップタイプやフラッシュサーフェースタイプのドアハンドルに移っているのが気になります。
扱いやすさよりもフラットなボディを求めているのでしょうか?
実質的なメリットとしてはふたつ考えられます。
ひとつは空気抵抗を減らすことに効果が期待できます。燃費のためならほんの少しの抵抗でも減らしたいというエンジニアの気持ちの表れかもしれません。またEVの場合は少しでも電費を稼ぎたいという思いもあるでしょう。あるいはそう見せたいというポーズです。
ただし、現実的にどれくらい空気抵抗が小さくなるものなのは疑問だと思っています。モード燃費に影響するほど変わるとは思えません。
もうひとつは、全幅を小さくすることです。
最近はどんどん車幅が広くなる傾向にあります。ボディ表面がフラットになっていても、そこにドアハンドルが付くとその分、車幅が広がってしまいます。
ほとんどのクルマは車幅が一番広い部分はBピラー付近です。前席用のドアハンドルはBピラーに近いところにあるので、そのまま車幅が広がることになってしまいます。
BMWの先代「3シリーズ(F30)」は、本国仕様の全幅は1817mmでしたが、日本の機械式駐車場事情を考慮して日本仕様の右ハンドルだけ厚みを薄くしたドアハンドルを採用し1800mmにおさえました。
これは筆者の個人的な好みになってしまいますが、バータイプのドアハンドルが存続してもらいたいです。
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