奇跡のロングライフカー
text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Satoshi Kamimura(神村 聖)
【写真】サイズはほぼ同じ 取材したミニ/クラシック・ミニのEV【比べる】 (50枚)
自動車の生産期間は、近年ではほとんどの場合10年以内となっている。
コロコロと変わっていく流行にモデルの魅力がついて行かないし、10年もすれば機構的な進歩も著しいからだ。
しかも衝突安全性の向上や排気ガスなどの環境性能も厳しさを増しているし、完全自動運転に近づくほど増えるセンサー類のインストールなど、クルマをプラットフォームごと作り変えないと対応できない事案が少なくない、ということも関係している。
だから長寿のクルマ、つまり同じモデルが長い間創り続けられるというのはそれ自体が奇跡に近い。
1959年に生産が開始され、2000年まで作り続けられたクラシック・ミニの41年という生涯は、例外中の例外。
例えばポルシェ911だってリアエンジンという不文律の下で、定期的にフルモデルチェンジされた結果としての長寿なのだから。
とはいえクラシック・ミニも、全く同じボディのまま作り続けられたわけではない。着々と改良が施された結果、ほぼ同じスタイルながら、マーク1から10まで10種類が存在するのだ。
今回スポットを当てるローバー・ミニは、80年代後半から生産終了まで作られた、マーク6以降のモデルとなる。
作りの良さと時代が長寿の鍵
クラシック・ミニのロングライフの理由は数多あるが、ざっくりと整理するならば巧妙なクルマの作りと時代背景とに分けられる。
クラシック・ミニはスエズ動乱を契機に開発されたエコカーである。
前後に頑丈なサブフレームを持つボディは、サイズに対して非常にコストが掛かっていた。
またギアボックスをオイルパンの中に仕込んだパワートレインも専用に開発されたもの。ローバーの時代にはインジェクション化も行われ排気ガス規制に対応している。
一方小さなモノコックボディは高い強度を誇り、走りや経年変化、そして衝突安全にも有利に働いたのである。
時代背景も興味深い。
60年代の終わり頃から財政状況の悪化や労働意欲の低下など、いわゆる「イギリス病」に苦しんでいたイギリスの自動車産業は、1973年のオイルショックで完全な低迷期に突入する。
クラシック・ミニの後継モデルは何度も企画され、実際に販売もされているが、ミニを越える小型車を生み出すことができなかったのである。
後継モデル不在のまま、なし崩し的に作り続けられたクラシック・ミニは、一時期は「ダメなイギリス」の象徴でもあった。例えばミスター・ビーンの愛車として度々滑稽に扱われていたように。
そんな状況を一変させたのは、日本におけるブームの勃発だった。
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