墨田区に2022年に誕生したミニシアター「Stranger(ストレンジャー)」。カフェを併設した現代的な装いで映画になじみのない若者らを引きつけつつ、下町ゆかりの作品をラインアップし、「ご近所さん割」を取り入れるなど、地域に根ざした興行を目指す。苦境が報じられがちなミニシアター業界の光明となるか―。
◆カフェの中に隠し扉?映画ファンの心くすぐる設計
パチンコ店を改装したシアターは都営新宿線菊川駅から徒歩すぐ。映画のポスターより先に併設するカフェの看板が目に入り、通り過ぎそうになった。劇場の入り口はカフェの奥で、まるで隠し扉のようだ。49席の座席は十日町シネマパラダイス(新潟県、18年閉館)、スピーカーは鶴岡まちなかキネマ(山形県)から譲られたもので、映画ファンの心をくすぐる。
22年9月に開業。フランス映画の巨匠ジャン=リュック・ゴダール監督作品などを上映したが、集客に苦戦し、今年2月、映画配給などを行う「ナカチカ」(中央区)に経営が譲渡された。同社社員の更谷(さらたに)伽奈子さん(27)が劇場を運営する子会社の社長に就任し、作品選びやイベント企画に奔走する。
◆ロケ地から映画館へ、映画館からロケ地へ
希少な作品をかけるというDNAを引き継ぎつつ、昨年ヒットした「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督)などの一般向け作品を加えて間口を広げた。カフェでは作品とのコラボメニューを展開。コーヒーショップが集まる清澄白河エリアが近いこともあってか、「カフェだと思って入ってくる若い人たちも結構いる」と更谷さんは話す。
地域とのつながりを重視し、墨田、江東区の在住・在勤・在学者の割引を導入。ビム・ベンダース監督の「PERFECT DAYS」を上映した際は、役所広司さん演じる主人公が通う銭湯のロケ地「電気湯」(墨田区)のグッズをカフェに展示した。更谷さんは「映画を見て電気湯に行く人も、電気湯に入って映画を見に来る人もいて地域を盛り上げられた」と喜ぶ。
◆下町はミニシアターの「空白地帯」
実は都内のミニシアターは西側に多く、下町の劇場は貴重な存在だ。
今年3~4月にドキュメンタリー「ペーパーシティ 東京大空襲の記憶」(エイドリアン・フランシス監督)を上映したところ、連日満席で観客の半分を地元の人が占めた。企画したホリプロの宮川宗生プロデューサー(45)は東京大空襲の継承がライフワークで「ここは空襲があったど真ん中。劇場を出たらすぐに現場があり、当時に思いを巡らせられた」と話す。渋谷や新宿の映画館まで足を運べなかった高齢者に感謝されたといい、「この地域にミニシアターがある意味は大きい」と語る。
◆サブスク時代に劇場で映画を見る価値とは…
更谷さんは公民館などでの上映会への配給や劇場勤務などを経験し、22年にナカチカに入社した。原点は子ども時代に映画を見に行った時の「いい時間だったな」という体験。自宅などで鑑賞できる配信サービスも人気だが、「わざわざお金をかけて移動して、知らない人と作品を共有することが映画には大事。文化の発信拠点として認識してもらえるようにいろいろトライしたい」と話す。
Stranger 墨田区菊川3の7の1。19日~8月8日はジョン・ヒューストン監督特集で劇場未公開作「ゴングなき戦い」など5作品を上映。スケジュールはホームページ参照。問い合わせは電080(5295)0597へ。
文・石原真樹/写真・坂本亜由理
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