規模は小さいものの独自の視点で多様な作品を上映している、ミニシアター。日本の映画文化には欠かせない存在ですが、コロナ禍の影響などで、閉館が相次いでいます。
映画文化を守るために、ミニシアターをどう支えればよいのでしょうか。
■東西のトップランナーが…
ことし7月、ミニシアターの先駆けの一つとして知られた東京・神田神保町の「岩波ホール」が閉館しました。
1968年に多目的ホールとして開館し、その後、世界の埋もれた名作映画を発掘する活動を続け、半世紀近くにわたって274の作品を上映してきましたが、コロナ禍の影響で運営が困難になったということです。
一方大阪では、関西の映画文化をけん引してきた「テアトル梅田」が9月で閉館し、32年の歴史に幕を下ろしました。同じ梅田にある系列の映画館への業務の集約にともなって閉館したということです。
ミニシアターなどの全国団体「コミュニティシネマセンター」がまとめた「映画上映活動年鑑2021」によりますと、日本の映画館のスクリーン数の合計は、去年は3687。このうちシネコン=シネマコンプレックスが3249と、88%を占めています。ミニシアターは240と6.5%にすぎません。
一方、去年映画館で公開された1112作品のうち、半数にあたる555本はミニシアターでしか上映されていません。
つまりミニシアターは、少ないスクリーン数でありながら、画一的ではない、さまざまな作品を見る機会を保証する場となっているのです。
ところが、今は各地にシネコンがあるだけでなく、映像配信サービスの充実で、スマホやパソコンでもさまざまな映画をみることができます。
さらにはコロナ禍で休業を余儀なくされた期間もあり、ミニシアターにとっては厳しい状況が続いています。
■コロナ禍 支える手立ては
コロナ禍に対しては、映画ファンによる支援の動きが見られました。おととしの春、最初の緊急事態宣言で休館が相次いだ際に、2人の映画監督が発起人となって「ミニシアター・エイド基金」というクラウドファンディングを立ち上げたところ、およそ1か月の間に3億3000万円あまりが寄せられました。目標としていた1億円の3倍以上の額で、100を超える映画館に分配されました。
また、「ARTS for the future!」(去年)、「ARTS for the future! 2」(ことし)という、さまざまな文化芸術活動に対する国の支援を受けている映画館もあります。映画館に関しては、「主体的に特色ある作品を選んで上映する活動」が支援の対象です。
こうした支援もあって、ミニシアターの総数自体は、2017年の120館が、コロナ禍の去年は136館と、むしろ増えています。
閉館に追い込まれたところが出ている一方で、新たに開館したところなどもあるからです。
ただ、経営を取り巻く環境が好転しているわけではなく、映画文化を衰退させないためには、長期的な視点でさまざまなサポートを考える必要があると思います。
■映画館の取り組みは
映画館の自助努力の1つとしてご紹介したいのが、未来の観客、すなわち子どもや若者を増やすために映画館が協力しあう取り組みです。
この夏、各地のミニシアターなど7団体が共同で「夏休みの映画館」というイベントを開きました。去年に続いての開催で、プログラムや関連イベントを一緒に考えて7日連続で上映します。
上映日時をそろえることで、監督のトークイベントなどをオンラインで同時に行うことができます。また、一部の作品については、作品のあらすじや背景、登場人物などをコンパクトに紹介する「鑑賞ノート」を作成し、無料で配布しました。
入場者数は合計で、去年は786人、ことしは1013人と、1.3倍ほど増えたということです。
映画館どうしの連携を強めることで、集客につながるノウハウを共有することもできます。コミュニティシネマセンターは、「今後も続けることと、参加する映画館を広げていくことが大切だ」としています。
■地域で支える 商店街が運営!
次に注目したいのは、「地域で支える」事例です。
山形県鶴岡市の「鶴岡まちなかキネマ」は、絹織物工場として使われていた建物を利用して2010年に開館した市内唯一の映画館でしたが、コロナ禍のおととし5月、臨時休館したまま閉館してしまいました。
この建物には鶴岡市社会福祉協議会が移転することになったのですが、市民から「映画館を残してほしい」という要望が高まり、1万をこえる署名が集まりました。
そこで名乗りを上げたのが、すぐ近くにある商店街です。商店街の店の人たちが設立し、空き店舗の活用などを手がけてきた「山王まちづくり」という会社が、社会福祉協議会からスクリーンがある部屋を借りる形で、映画館の運営を引き継ぐことになりました。
スクリーンはこれまでの4つから2つに減りますが、来年3月25日に再オープンさせる予定です。
再開後は地元ゆかりの作品などを積極的に上映し、映画館と商店街を結びつけるイベントなどを通じて、まちににぎわいを作り出したいとしています。
代表取締役の三浦新さんは、「映画館は繁華街の象徴だ。まちづくりを進めていくうえでも映画館を残すことは重要だと思う」と話していました。
課題は運営にかかる費用です。映写機を更新する必要があるため、現在クラウドファンディングを行っています。
こうした「地域で支える事例」はほかにもあります。
例えば盛岡市では、市が事務局となり、「映画の街盛岡」推進事業が進められています。盛岡市の中心部には、5つの映画館が並ぶ「映画館通り」があり、これをまちづくりにつなげようと、1作品あたり500円で鑑賞できる「ワンコイン上映」などが行われています。
こうした取り組みにかかる費用は、市や商工会議所などが負担しているということです。
■映画業界 「共助」の動きも
最後にご紹介したいのは、映画業界全体を支える「共助」の仕組みを作り、その枠組みの中でミニシアターを支援しようという動きです。
ことし6月、是枝裕和さんなど7人の映画監督が「action4cinema/日本版CNC設立を求める会」という団体を立ち上げました。現在は8人の監督が参加しています。
会が目指しているのは、映画業界全体でお金をプールして、支援が必要なところに回す仕組みづくりです。フランスでは、CNC(セー・エヌ・セー)=国立映画映像センターがその役割を担っているということで、日本でも同じような組織が必要なのではないかと提案しているのです。
興行収入や配信による収益の一部などをこの組織に集め、映画の「製作」や、「流通」、人材育成など「教育」への支援に充てるほか、労働環境の改善やハラスメント対策などにも対応したいとしています。ミニシアターは2つめの「流通」に含まれています。
この仕組みを実現させるには、財源をどう確保するかという大きなハードルを乗り越える必要がありますが、支援によって映画を見る人のすそ野が広がれば収入が増え、さらに支援ができるという好循環が期待できます。今後も議論を深めてほしいと思います。
ミニシアターは多様な作品を上映するところですから、若手の映画監督など「つくる側」にとっても、自分の作品を見てもらう場として大切な存在です。
見る人、作る人、地域の人、それぞれの立場でミニシアターを支える方法を探っていくことが、映画文化を守り、発展させることにつながってほしいと思います。
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