2022年の液晶テレビのトレンドキーワードは“量子ドット×ミニLED”だろう。日本メーカー勢の量子ドット×ミニLEDへの取り組みはかなり後発になってしまったが、なにはともあれ、今年は、液晶パネルを採用した映像機器がこぞって、量子ドット×ミニLEDを使い出す。
この勢いは、かつて液晶パネルを採用した映像機器が、バックライトをCCFLからLEDへと移行した2010年前後を思い出す。そして、CCFL→LEDへの移行期は、LEDバックライト使った画質の作り込みが玉石混淆だったことも思いだした。
そういえば、つい先日、某中華メーカーの量子ドット×ミニLEDの液晶パネル採用機器の画質を評価したが、その出来映えは芳しくなかった。まだ、量子ドット×ミニLEDの手懐け方に慣れていないメーカーが多いのかもしれない。
そんな中、“液晶のシャープ”の異名を持ち、かつて「最も早くからLEDバックライト化に挑んだシャープ」(記事参照)が、量子ドット×ミニLEDを採用した“AQUOS XLED”ブランドから8K解像度の「DX1」、そして4K解像度の「DP1」シリーズを発売した。
今回はその中から、4K「DP1」シリーズの65型「4T-C65DP1」(44万円前後)を取り上げることにしたい。
外観:重さは重量級で映り込みはわずか。スピーカーは良好
ところで、量子ドット×ミニLED採用の液晶テレビは、従来の同サイズ製品と比べ、1.5倍近く重くなっていると考えた方がよさそうだ。これはミニLEDの採用により、単位面積あたりのLED数が増えて、発熱量が増大していることと関係が深い。恐らく基板や放熱板がより凝った構造になっているのだろう。
実際、今回取り上げる4T-C65DP1(以下C65DP1)も、ディスプレイ部だけで33kgもある。通常LEDバックライトを採用した4Kアクオス「4T-C65DN1」が約23kgなので、10kgも重いのだ。
スタンド部だけで6kgあり、設置時の総重量は39kg。約40kgという重さは、ほとんどブラウン管時代のテレビを連想させる(あの頃はその重さで29型だったが)。今回は、担当編集と筆者の2名で自宅の階上へ運び入れたが、相応に大変な作業だった。購入を検討している方は、設置サイズはもちろん、搬入に関してもよく計画した方がいいだろう。
ディスプレイ部の大きさは144.2×7.2×84.5cm(幅×奥行き×高さ)で、スタンド合体時は144.2×29×89.6cm(同)。スタンドの寸法は55×29cm(幅×奥行き)で、画面がはみ出てよければ、この面積分の台があれば本機を設置することはできる。
スタンドはチルトには対応していないが、±15度のスイーベル(首振り)が可能だ。65型の大画面でスイーベルに対応するのは少数派なので、リビングとキッチンの両方で見えるように角度を付けて楽しみたい、なんて用途には重宝するだろう。
ディスプレイ部の額縁の幅(額縁末端から表示開始領域まで)を実測したところ、上部と左右部が約7mm、下部が約13mmだった。相応に狭額縁なデザインとなっていると思う。映像を表示させたときには、ほとんど額縁の存在は感じない。
画面下部から接地面までの隙間は、実測で画面端で約7cm、中央付近で約5cmとなる。最近の液晶テレビとしては平均的な高さだ。
設置後、本体などの撮影をしている最中に気が付いたのだが、C65DP1は、画面内への室内情景の映り込みがとても少ない。
室内が結構明るくても、画面内の黒い領域はしっかりと暗く、ユーザー自身の顔の映り込みはかなり低減されている。もちろん、映り込みはゼロではないが、グレアパネル製品として他社と比べると、相対的にはかなりの低反射特性になっていると感じる。ちなみに、この低反射機構をシャープは“N-Blackパネル”としてブランディングしている。
背面を見ていて、スピーカー開口部とおぼしき穴がたくさんあいているので「ただ者ではないな」とうすうす気が付いてはいたが、実際、サウンド性能はかなり優秀であった。薄型テレビ製品でありがちな「出音が下に定位する」ことがなく、ちゃんと画面中央から出ている感じがするし、左右のステレオ感もかなりワイドに感じる。低音のパワー感もある。
音量を上げても、ビビリもなく、音量を上げれば上げるほど、そのスピーカーシステムのダイナミックレンジが際立つ感じだ。音質モードは「イマーシブサウンド」モードが楽しげ。有効化すると、ボカール曲はクリア感と解像感が際立つようになり、音楽を聴くのが楽しくなった。
サラウンドモードは「リビング」「シアター」「スタジアム」「切」が選べるが、有効化しても特に目立った音質劣化はなく、映像コンテンツに合わせて使うと面白い。筆者はライブ映像を「スタジアム」モードで楽しんだが違和感なし。定位感は曖昧になるが部屋に音が満ちる感じになるので、部屋の掃除をする時などに活用すると良さそうだ。
スペック的には総出力80Wとなっており、テレビ内蔵スピーカーとしてはかなり贅沢な仕様である。出音の良さも納得である。
80Wの内訳は、ツイーターが7.5W×2(左右2)、ミッドレンジが15W×2(左右4)、ウーファーが15W、ハイトツイーターが10W(左右2)、ハイトミッドレンジが10W(左右2)。スピーカーの総数としては11基となるが、チャンネル数的には4.1chシステムということになる。
ただ、これだけスペックもサウンド表現力も素晴らしいのにも関わらず、Dolby Atmos未対応なのは、なんとも惜しいところだ(Dolby Visionには対応している)。
定格消費電力は357W、年間消費電力量は218kWh/年。65型4Kアクオス「4T-C65DN1」は約270W、70型4Kアクオス「4T-C70DN1」が約330Wなので、ミニLEDモデルの消費電力は、通常LEDモデルの1サイズ上のモデルよりも大きいと言うことになる。発光部材の個数が増大している分、そのあたりは致し方がないと言ったところか。
インターフェース:HDMI2.0とHDMI2.1を2基ずつ4系統装備
接続端子パネルは正面向かって左側面と左背面側に実装されている。
左側面には、HDMI端子が4系統実装されている。うち、HDMIポート1/2がHDMI2.0規格相当、HDMIポート3/4がHDMI2.1規格相当に対応したものになる。
全てのHDMI端子は、デフォルト状態ではHDMI1.4規格状態になっているため、「外部機器設定(ファミリンク)」-「HDMI対応信号モード」で、適切な設定を行なわなければならない。
業界的に、古いHDMI機器との互換性を重視するがために、多くのメーカーでこうした「互換性重視」のデフォルト設定になっているが、逆に最新機器を接続したときに「4K/HDRが映せない」「4K/60Hz(または4K/120Hz)が映せない」といったトラブルが出てくるために難しいところではある。
HDMIポート1/2は、「フルモード」と「互換モード」(デフォルト)が選択可能で、HDMI2.0対応にするには「フルモード」を選択する必要がある。一方、HDMIポート3/4は、「120Hz(HDR)」と「120Hz」、そして「60Hz(HDR)」(デフォルト)が選択可能でき、HDMI2.1対応にするには「120Hz(HDR)」を選ぶ必要がある。
側面側の接続端子パネルには、HDMI端子以外に、アンテナ端子、3.5mmヘッドフォン端子兼アナログステレオ音声出力端子、USB 3.0端子がある。
USB 3.0端子は、USBメモリーやストレージデバイスとしての扱うカメラ機器などをUSB接続するためのもの。C65DP1がストレージデバイスと認識できれば、そこに収録されている映像、音声(音楽)、写真(静止画)などの各種ファイルをC65DP1で再生できる。
筆者が実験してみた感じでは、動画はM2TS/MP4、音声はMP3/WAV/WMA/AAC、写真はJPG/BMP/PNGが再生できた。動画に関しては、HDR10やHLGなどのHDR映像ファイルも再生でき驚いた。
また、取扱説明書には書かれていないが、試しにUSBキーボードとUSBマウスをハブを介して接続してみたところ、両方とも普通に使えてしまった。おそらく、Android TVのOS側が対応していたのだと思われる。ただし、キーボードは英語キーボードとして認識され、日本語の入力は行なえなかった。しかし、マウスは、YouTubeアプリなどにおいて動画サムネイル選択などに利用できた。マウスやキーボードの方が便利なアプリを使う時は活用するといいだろう。
豆知識になるが、キーボードやマウスをC65DP1に接続していると、C65DP1の電源オフ時にマウスやキーボードに触れると電源が入ってしまう現象に遭遇した。どうやら、USB接続された入力インターフェースに触れると、電源が再投入される設計になっているようだ。ゲーミング対応の高感度マウスだと、ちょっとした振動でも電源が入るため、突然深夜にC65DP1の電源が入ったとしても怪奇現象と思うことなかれ(笑)。
続いて、背面側の接続端子パネルに目を向けるが、ここには、100BASE-TXまで対応するLAN端子、アナログ映像/音声入力に対応した3.5mmの4極ミニジャック、光デジタル音声出力端子、USB 2.0端子、USB 3.0端子がレイアウトされている。
このミニジャックは最近モデルでは珍しい、赤白黄ケーブルでお馴染みのコンポジットビデオとアナログステレオ音声を入力出来る端子になる。この場合、4つのHDMI端子の次、「入力5」として利用できる。
ただ、この端子を利用するための変換ケーブルは付属してこないので、使いたい場合は、別途購入しなければならない。なお、コンポジット映像をあきらめた上で、オーディオ用の3極ミニジャックケーブルを使えば、HDMIポート2を選択時に流せる、外部アナログ音声入力用としても使える。
USB 2.0端子は、USBメモリーに入れたファームウェアをインストール(アップデート)する際に使うほか、前出の左側面のものと同じように、USBメモリーからのメディアファイル再生のために利用できる。
USB 3.0端子の方は、録画用のUSBハードディスクを接続するために利用するもの。最大16台までのUSBハードディスクが登録ができるが、USBハブを介した同時複数台の接続には対応していない点に留意したい。抜き差しで差し替えるのが面倒臭そう、と感じる人は、最初に接続するUSBハードディスクはできるだけ大容量のものにした方が良さそうだ。
ゲーム関連機能:4K120Hz対応するもVRR非対応。入力遅延は60Hz時1フレーム以上
HDMIポート3/4を「120Hz(HDR)」設定とし、PlayStation 5とXbox Series Xを接続したとき、各ゲーム機が本機に対してどのようなフォーマット対応ステータスを示したかは、以下の通り。
なお、HDMI2.1規格のVRR(Variable Refresh Rate)には未対応のようだ。RADEONやGeForceを使ってのFreeSync、AdaptiveSync、G-Sync Compatibleの実践テストを試してみたが、うまく動作しなかった。国内メーカーも徐々にVRR対応モデルが増えてきているので、アクオスにも搭載を期待したい。
続いて入力遅延をLeo Bodnar Electronicsの「4K Lag Tester」を用いて計測した。
今回計測できたのは4K/60Hz、フルHD(1,920×1,080ピクセル)/60Hzの2モードのみ。というのも、C65DP1では、4K Lag Testerが持つ、隠れモードのフルHD/120Hz測定モードを正しい映像として認識出来なかったのだ。これまで結構な回数を測定してきたが、120Hz入力対応のテレビ製品で測定できなかったのは今回が初めてだ。
ということで、4K/60Hz、フルHD/60Hzの2モードについて、AVポジション(画調モード)を「ゲーム」と「標準」で設定したときに計測した入力遅延が以下の数値だ。
ゲーム
・4K/60Hz 18.4ms
・フルHD/60Hz 18.4ms
標準
・4K/60Hz 98.4ms
・フルHD/60Hz 98.4ms
「標準」モードで98.4ms、60fps換算で約5.8フレーム遅延は仕方ないとしても、「ゲーム」で18.4ms、60fps換算で約1.1フレーム遅延は、最近の国産メーカーモデルとしては遅い部類に属する。このあたりは次期モデルで改善を望みたいところだ。といっても、近年のアクオスは、ずっと計測値が変わらないので、恐らく、ゲーム機と積極的に組み合わせて使うことをあまり重要視していないのだろう。
続いて、映像と音像の同期ずれに関してのチェックをベンチマーク映像ソフトの「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の「A/V Sync」(24fps)テストを用いて行なった。120fps撮影したテストの様子を20倍スロー化した映像を以下に示す。こちらもAVポジションは「ゲーム」で測定している。
結果を見た感じだと1フレーム遅延(+41.7ms)の後半あたりから音が鳴っているようだ。遅い機種では赤の+125.1msあたりで鳴るものもあるので、まずまずといったところだろう。
操作:レスポンスは良好。Androird TVのパフォーマンスもよし
リモコンは、オーソドックスな縦長のバーデザインタイプだ。細身で厚みも手頃で握りやすい。
上側にはネット系動画配信サービスのボタンが列び、その下にデジタル放送局関連ボタン、音量、選局、入力切り替えのボタンが配置されている。最下部はレコーダー機器やUSBハードディスクに録画した番組の再生制御用のボタンがレイアウトされている。
C65DP1は、Android TVなので、Android端末としての操作系と、アクオスとしての機能操作系がミックスされている。そこを理解できていないと、初見では使いにくい。おそらくスマートフォン世代のユーザーには、この操作系で何の違和感も感じないかもしれないが。
テレビ系のメニュー操作や機能設定は、[ツール]ボタンを押して呼び出すアクオス系メニューで行なう。
一方で、Android端末としての操作をしたいときは“家の形”をしたホームボタンを押す。この流れさえ掴んでしまえば迷うことはない。
ただ、この“二極操作系”は良くも悪くも分断されており、Android端末としての操作をしている時(ネット動画配信サービスを利用しているときなどを含む)、デジタル放送の選局ボタンに相当するリモコン側の数字ボタンを押してもうんともすんとも言わない。
従来のテレビ製品ユーザーの感覚からすれば、押した数字ボタンに対応した放送が映ることを期待することだろう。数字ボタンによる選局を有効化するには、一度、[終了]ボタンを押して、Android端末としての機能を“終了”しなければならない。
ところで、C65DP1のAndroid TV機能自体のレスポンスは良好だ。
YouTubeアプリなども、スマートフォンのものとほとんど変わらない機敏さで操作できる。[Googleアシスタント]ボタンを押せば、音声による自然言語操作も可能。いつものように「YouTubeで西川善司を検索」とやってみれば、発話からそのテキスト化、コマンドを人気してからの結果の表示までの待ち時間がほとんどない。
リモコンからの文字入力は依然と難度が高いが、「見る」「聴く」といった“メディアを消費するだけ”の使い方であれば、この自然言語操作の使い心地と相まって、スマートフォンと同等の使い勝手が提供されていると感じた。
電源を入れて、地デジ放送の画面が出てくるまでの所要時間は実測で約4.5秒。地デジ放送のチャンネル切り替えの所要時間は約2.5秒、HDMI入力切り替えの所要時間は約2秒であった。まずまずの速さである。
画質チェック:圧巻の高輝度、高コントラスト。色彩設計は濃厚でクセあり
C65DP1の液晶パネルはVA型液晶パネルで、これにミニLEDベースの青色バックライトと量子ドット技術を組み合わせいる。
昨年、TCLの「C825」を取り上げた際にも触れているが、まだ、目新しい技術なので本稿でも、量子ドットとミニLEDについて簡単に解説しておこう。
ミニLED×量子ドット搭載のハイコスパ4K襲来! TCL「C825」の実力とは!?
量子ドット(Quantum Dot)技術とは、近年、上級テレビ製品に採用傾向が強まっているもので、一言で言ってしまえば、そのディスプレイ装置の純色の鮮烈度を高め、ひいては色域を拡大する新技術、ということになる。
この量子ドット技術。実は映像機器への採用/応用が進んだのここ直近の10年くらいで、元々は、太陽光発電装置における光電効果の効率向上などへの応用が盛んだった。最近のスマートフォンのカメラの撮像素子の感度が向上したのも、実は量子ドットと無縁ではなかったりする。
量子ドットという材質そのものは、カドミウム、亜鉛、セレン、硫黄などを組み合わせた数nmサイズの微粒子のことを指す。この量子ドットには、光を当てると、その化合物のレシピや粒子直径に応じて光の波長を自在かつ高効率に変調してくれる特性がある。そう、“光の色を変換する”ことができるわけだ。
液晶モニターや液晶テレビ向けの量子ドット技術は、青色LEDチップから発せられる青色光を、赤量子ドットにぶつけて赤色に、同様に緑量子ドットにぶつけて緑色を作り出すのが一般的だ。いうまでもなく、青色は青色LEDからの光をほぼそのまま利用することになるが、いずれにせよ、最終的にカラーフィルターで調色して、赤緑青の3原色を取り出す構造にしているものが多い。
さて、LED製法の発展もあって、この青色単色LEDチップは今や1,000分の1mm(マイクロメートル:μm)級にまで微細化が可能となっている。そう、これが「ミニLED」だ。
このミニLEDは、文字通り小さいので、わずか数mmの間隔で高密度に実装することもできるようになった。つまり、「それ自体がちょっと解像度粗めの“青”映像を表示するディスプレイ装置」のようなバックライトシステムを構成できるようになったのだ。
まあ、ミニLED実装間隔をmm単位にまで切り詰めた製品は、発熱や消費電力の観点からまだほとんど存在しないが、数センチ間隔でLEDチップを実装していた従来のLEDバックライトシステムと比べれば、ミニLEDバックライトシステムは劇的に光源体を高密度に配置できている。
そんな細かい明暗分布を表現できるバックライトであれば、液晶といえども、局所的な漆黒の表現や、強烈な明暗差が同居した目映いばかりのハイコントラスト表現が実現できる。いうなれば、液晶パネルでありながら“自発光に近い表現”が行なえるわけだ。
この量子ドット×ミニLEDの組み合わせを薄型テレビ製品へ採用するようになったのは、海外メーカー勢が2020年あたりから。対して、国産メーカーは今年2022年(シャープは2021年)から、積極的に動き出そうとしている。
ではまず、いつものスペクトラムを見てみよう。
AVポジション:標準
AVポジション:スポーツ
AVポジション:映画
AVポジション:ゲーム
AVポジション:PC
AVポジション:フォト
AVポジション:ダイナミック
青色光が強いのは、白色LEDもミニLEDも、発光体が青色だからだ。
しかし量子ドットの効果で、緑と赤のスペクトラムピークの立ち上がりが鋭くなっており、特に隣接する他の純色スペクトラムとの分離具合が素晴らしい。緑と赤のスペクトラム形状は、もはや純色の緑や赤のLEDを発光させたものと変わらないほどだ。ここまで、ピークが鋭ければ、各色の色ダイナミックレンジは高そうだし、各色の色スペクトラムがよく分離しているということは高精度な混色が得られる、ということに繋がる。
輝度性能も相当に高い。正式発表前に公開されていた情報によると、ピーク輝度は2,000nitを超えるそうだが、たしかに、明るいテスト映像を表示させると、その数値を納得させられるくらいの目映さを感じる。
全白画像を表示させて照度計を画面に密着させて計測した照度は1,420luxもあった(AVポジション:ダイナミック時)。液晶パネル裏側に実装されたミニLED総数は8,000個を超え、その実装ピッチは約1cm前後とのことなので、この高輝度ぶりも納得である。
ということで、実際に、前出の「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」の「TONE MAPPING」テストを用い、10,000nitまでのグラデーション試験映像を表示させ、白及び赤緑青の純色の階調表現が何nitあたりまで再現できるか(≒飽和してしまう上限)をチェックしてみた。なお、テストに使用したAVポジションは「映画」とした。
テスト結果は、白は1,800nitあたりまで。赤は600nit、緑は900nit、青は600nitまでの階調を表現できていた。たしかに、一般的な白色LEDバックライトシステムを採用した液晶テレビと比較すると高階調の表現能力は相当に高い。
続いて、ミニLEDバックライトシステムに期待される、“自発光画素に迫るエリア駆動精度”を推し量るべく、同じく「The Spears & Munsil UHD HDRベンチマーク」のエリア駆動精度の試験モード「FALD ZONE」(FALD:Full Array Local Dimming)テストを実施してみた。
このテストでは、四角形状の発光体が漆黒の背景の外周を動き回らせることで、その発光体の周囲にどのような影響が及ぶかを検査するものだ。
エッジ型バックライトシステムでは、バックライトが左右エッジに実装されている場合は発光体の場所から水平状に、上下エッジに実装されている場合は、垂直状に光の帯(俗に言うハロー現象、光芒現象)が現れてしまう。
一方、直下型バックライトシステムの場合は、エッジ型バックライトシステムのように水平/垂直状にハローがでることはないが、液晶パネルの裏面に実装されているLEDの密度や、LEDとの距離(離れているとハローが出やすい)によってハローの出方が変わる。発光体を動体で表示させているのは、バックライトのエリア駆動(ローカルディミング)が動体の動きにうまく追従できているかなどを検証するためだ。
注意深く観察してみたが、総じて、エリア駆動の精度は高いと言う印象を持つ。ハローは四角形発光体のごく周囲だけに現れ、発光体から離れところは漆黒のまま。横移動と縦移動において、エリア駆動の反応速度に違いがあるか観察したが、若干、縦移動の方だけ“発光体の軌跡”(実質的なハロー)が長く残る印象があったが、気にならない。
試しに同一ベンチマークソフトに収録されている「STARFIELD」も実行。こちらはSF映画でスターシップが宇宙を高速移動するような、漆黒の背景の中央から星(輝点)が放射状に拡散するテスト映像だ。
このテストは先ほどのFALD ZONEテストとは違って、「発光動体が点であること」「画面外周だけではなく画面全体に輝点が散らばる」という、自発光映像パネルではない液晶パネルにとっては苦手なテストになる。
C65DP1では、さすがに有機ELテレビのように漆黒部分が“真っ黒のまま”とはいかなかったが、それでも輝点との明暗差はうまく表現ができていた。液晶テレビとしては優秀だと思う。ただ、このテストや、暗めの映像を表示させたときに、画面の四隅から強めの黒浮きを確認した。評価機ゆえの個体差(色んな編集部を渡ってくるため)なのかもしれないが、オーナーとなった暁にはこのあたりは各自チェックしたい。
テストパターン以外の映像コンテンツもチェックした。まず最初はデジタル放送をチェック。
バラエティ番組やニュース、相撲中継などを見たが、AVポジションが「標準」だと肌色が全体的に濃すぎる印象を受ける。「映画」にすると幾分、この傾向が和らぐが(完全に消えるわけではない)、今度はコントラスト感が寂しくなる。
日本人のタレントの肌が、全体的に褐色気味にシフトしており、まるで“夏休み満喫後”みたいな色合いになってしまう。また、光の当たり具合によって肌が、真っ赤になったり、オレンジに寄っている箇所もある。もしかすると、店頭で他社製品や自社過去モデルと横並び展示されたときに、彩度の高さの違いを明確にアピールするための色彩設計なのかもしれないが、そうだったとしたら、自然の彩色モードも欲しいところだ。
あくまで筆者の推測にはなるが、赤量子ドットの効果で赤成分のダイナミックレンジが広がったはいいものの、その非線形な発光特性を掴みきれず、カラーボリュームの作り込みや追い込みが、まだ不完全なのかもしれない。
そうそう。テレビ放送を「標準」画調で見ていたときに気が付いたのだが、動きがややゆっくり目な反復パターン表現において、倍速駆動機能が生成する補間フレームがよくエラーを起こしていた。下記にその様子を示す。
さて、いつもの、4Kブルーレイソフト「マリアンヌ」の定点チェックも行なってみた。
最初のブラッド・ピットがロータリー前に来るまで到着するシーンにおける街灯などの自発光表現は良好。ミニLEDバックライトによる局所的な高輝度表現の旨味が存分に出ている。
路駐した自動車の車体の真下の地面に出来た影は、一般的な液晶テレビでは黒浮きを伴った黒がベタ塗りの印象を受けるが、C65DP1では、この影の暗闇に奥行きや深さを感じられる。液晶パネルは元来「漆黒は苦手だが、暗く光らせるのは得意」なわけだが、この「影の中の立体感」は後者の特長がよく現れている箇所ということになろうか。
いずれにせよ、ミニLEDバックライトシステムの暗部表現のダイナミックレンジは、相当に優秀だということが実感出来た。
ただ、やはり人肌の表現は気になる。ブラッド・ピットの肌がまるで風呂上がりで“のぼせた”みたいに見える。
暗闇の屋上の偽装ロマンスシーンは、夜空の沈み込みは良好。かすかな照明下の屋上のコンクリート床や手すりの漆喰の微細凹凸表現は、暗部階調だけで緻密な立体感が描けている。
一方で、このシーンの暗い状況下においては、二人の肌の色は赤味が乗っており、それほどの不自然さは感じられなかった。ということは、明るめのシーンの肌色において、量子ドットの発色特性を手懐けられていないのかもしれない。
続いて、4Kブルーレイ版「DUNE/デューン 砂の惑星」を視聴。
ときどき挿入される宇宙航行シーンは、宇宙の暗闇の深さが気持ちがいい。
この映画は全体的にトーンが暗く、登場人物達も、青白い肌のヒューマノイドと褐色肌のヒューマノイドが主体なので、一般的なテレビ番組や人間ドラマ系映画で感じた人肌の不自然さは感じない。どうやらC65DP1には、同機の色彩表現がマッチするコンテンツと、そうでもないコンテンツがあるような気がする。
ミニLEDバックライトシステムによる輝度ダイナミックレンジは素晴らしく、SF宇宙モノ映画の閃光ほとばしる表現は「ミニLED使ってるぜ!」感を満喫出来て楽しかった(笑)。C65DP1を披露する際の接客映画には、本作はおあつらえ向きと思う。
総括:第一世代ながら完成度は○。コントラストやHDR、階調は良好
4月初旬時点でのC65DP1の実勢価格は、35~45万円前後といったところ。55型「4T-C55DP1」は、C65DP1に対して5万円安いくらいの価格差である。
通常のLEDバックライト機「DN1」シリーズの場合、DP1の半額くらいで購入できるので、量子ドット×ミニLEDという新技術に、その価格差分の価値を見出せるかが選択のポイントになるだろう。
良くも悪くも、これまでのアクオスの色彩感と違うので、このあたりのインプレッションは、購入前に各自で実機確認をすることをお勧めする。本文でも述べたように、人肌の独特の発色特性は、そのユーザーの好みの画調であれば問題はない。肌色は実機映像を見てチェックしていただきたい。
コントラスト設計やHDR表現力、階調性能に関しては文句なし。素晴らしいと思う。新技術の活用は、得てして熟れた二世代モデルで完成度を増すものだ。第一世代モデルでここまで仕上げてきたのは立派と思う。
量子ドット×ミニLEDブームの担い手の1機種として、今期テレビの買い換えを考えているのであれば、候補に入れるといいだろう。
からの記事と詳細 ( 国産第1号の量子ドット×ミニLEDアクオス降臨。輝度も完成度も高し! - AV Watch )
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