英語の勉強中、挫折した経験がある人は多いでしょう。英語という言葉の「おいしさ」を感じることなく、モチベーションを維持するのはなかなかたいへんです。英語を楽しく、そして英語の「おいしさ」を感じながら勉強する方法をまとめたのが東京大学文学部教授である阿部公彦氏の『英文学教授が教えたがる名作の英語』(文藝春秋)です。
文学作品の文章は言葉の「おいしさ」を知るのにもってこいです。ここでは同書を引用し、アーネスト・ヘミングウェイの『老人と海』から、「おいしい」読みどころを紹介します。(全2回中の2回目。前編を読む)
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『老人と海』をより深く読む
心の声の描き方
本書に収められている他の文章と比べると、ヘミングウェイの作品は語彙からしても明らかに平易に見えるでしょう。熟語や構文の知識がためされるような難読箇所もほとんどありません。また氷山理論とは言っても、少なくともこの引用箇所はそれほどの省略は感じられないので、作品を通して読んできた人なら文脈は理解できます。
ただ、シンプルですっきりしているからといって、さらさらっと斜め読みしてしまうと、大事な部分を読み飛ばしてしまうかもしれません。たとえば次のような箇所です。
You are killing me, fish, the old man thought. But you have a right to. Never have I seen a greater, or more beautiful, or a calmer or more noble thing than you, brother. Come on and kill me. I do not care who kills who.
Now you are getting confused in the head, he thought. You must keep your head clear. Keep your head clear and know how to suffer like a man. Or a fish, he thought.
“Clear up, head,” he said in a voice he could hardly hear. “Clear up.”
お前、俺をやっつけようっていうんだな、老人は思った。お前なら権利はあるさ。こんなデカくて、きれいで、静かで品のある魚は見たことがないぞ、兄弟。よし。やれるもんならやってみろ。俺をやれ。誰が誰をやっつけようと同じだ。
おやおや、頭がおかしくなってきた、と彼は思った。しっかりしなくちゃいかん。しっかりして男らしく受難だ。それとも魚らしくか、と彼は思った。
「おい、頭、しっかりしろ」彼はかすかな声でつぶやいた。「しっかりするんだ」
老人がマカジキとの格闘に疲れ果て、頭が朦朧としてきた場面です。大海原に浮かぶ小舟には、老人が一人乗っているだけ。そんな極限状態の孤独な環境で発せられる言葉は、ふつうの状況で発せられる言葉とは明らかに何かがちがうでしょう。
からの記事と詳細 ( 「同じandでも微妙に違う…」 東大英文学教授が教える英文中の「今にもわからなくなりそう」な感覚が重要なワケ - 文春オンライン )
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