
手前は「桜薯蕷(じょうよ)」。ほんのり薄紅色に染めた生地を桜型に入れて蒸しあげ、ふっくらと優しい雰囲気に仕上げた。左は、「初桜(はつざくら)」。つやのあるこなしの生地を丸く成形して絞り、玉あられを載せて咲き初めの桜のイメージ。奥は山を覆うように咲き誇る桜を表現した「桜きんとん」。中にはピンク色に染めたあんが包まれていて、割った時にもまた、華やかさを楽しめる。器は黒田泰蔵作の白磁台皿。撮影:
お菓子は、その後にいただくお茶をよりおいしく感じさせるとともに季節や茶会のテーマを表現するという大切な役割があります。京都市中京区にある菓子司の2代目・八木勢一郎さんにお話をうかがいました。
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茶の湯の主役はあくまでお茶で、お菓子はその引き立て役です。お菓子の後にお茶をいただくと、口に残った甘さがさっと洗い流され、お茶の香りと味がふわっと広がります。お菓子の働きによって、お茶は格段においしくなるんですよ。
お菓子のもう一つの重要な役割が、季節を伝えることです。茶の湯に用いるお菓子の中には、お正月の花びら餅や夏越(なごし)の祓(はらえ)の水無月(みなづき)のように年中行事と結びついたものもありますし、春には桜、秋には紅葉など、四季折々のモチーフをかたどったものもたくさんあります。また、桜の主菓子にも、饅頭やこなし、きんとんなど、その種類はさまざまです。さらに、形状や色合いなどを微妙に変化させることによって、咲き初めの桜、ひっそりと咲く山桜、満開、散り際の姿など、あらゆる桜を映し出せるのも和菓子の面白いところだと思います。
茶席にお菓子が運び出されると、「そろそろ桜が咲きますね」などと会話が弾みますね。私たちも例年2月ごろに不徹斎御家元に『月ヶ瀬(つきがせ)』のご注文をいただくたびに「もう梅の時期なのだ」と、季節の訪れを感じるのです。
茶の湯を学ぶと、お菓子の楽しみはさらに広がります。私自身は大学卒業後に埼玉県の菓子司(かしつかさ)で3年ほど修業をし、京都に戻ってからすぐに武者小路千家に入門しました。稽古を重ねるうちに、茶の湯の中でお菓子が果たす役割がよくわかるようになりました。また、「佐保姫(さおひめ)」のように有名な菓銘とそのお菓子の姿を重ね合わせ、その意味の奥深さに驚いたこともあります。
とはいえ、お菓子はあまり堅苦しく考えて食べるものではありません。まず、見た目を楽しみ、ゆっくり味わってください。その後のお茶がきっとおいしくなりますから。
■『NHK趣味どきっ!茶の湯 武者小路千家 春に楽しむ茶の湯の遊び』より
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