ハッセルブラッドは、ミラーレスカメラX1D II 50Cや907X 50Cで、同社中判一眼レフカメラシステムHシリーズ用のレンズを使用可能にするためのアダプター「XHコンバーター0,8」を3月27日に発売した。発売に先立ち、本製品を試用する機会を得た。今回使用したボディはX1D II 50C。HシステムレンズをXシステムで用いた時、どのような描写が得られるのか。AFの速度やピント精度についてもお伝えしていきたい。
XHコンバーター0,8とはどのような製品か
ハッセルブラッドの大型センサー搭載デジタルカメラシステムは、中判フォーマットサイズのセンサーを搭載するHシリーズと、43.8×32.9mmの大型センサーを搭載するXシリーズ、これと同じセンサーを搭載するVシリーズの、大きく分けて3つの製品群によって構成されている。
本製品は、このHシステム用のレンズをXシリーズで使用できるようにするためのコンバーターだ。前記したとおり、HシステムはXシリーズよりもセンサーサイズが大型であるため(※H6D-100c、H6D-400cの場合)、これをXシリーズの製品で使用する場合、本来の画角で使用するためには縮小光学系を介する必要がある。また、HC/HCDレンズはAFの制御にも対応している。
XHコンバーター0,8の光学系は3群5枚のレンズ構成となっている。コンバーターを単体で持ってみてもしっかりとした重さがあると感じていたが、このレンズ構成でぎっしりとガラスが詰まっていると思うと、その重量にも納得できてしまう。
つまり、本製品はHシステムレンズの性能をXシリーズで最大限引き出すことを目的としたもので、0.8倍の縮小光学系が組み込まれているほか、電子接点の搭載により、レンズのフル電子コントロールに対応しているところに最大の特徴がある、というわけだ。縮小光学系を組み込んだことによる副次効果として、装着したレンズの開放絞り値が2/3段明るくなるメリットが得られる点もポイント。
今回試用したHシステム用レンズは、同シリーズ中で最もAF速度が速い製品だという「HC 2,2/100」だ。XHコンバーター0,8と組み合わせると、その焦点距離は80mm(35mm判に換算すると、62mm相当の画角になる)となり、開放F値はF1.8となる。ボディにはサイズおよび重量を考慮してX1D II 50Cを組み合わせた。
実写インプレッション
まず、画角的なところから。今回の組み合わせは35mm判換算で62mm相当の画角となることもあり、スナップで非常に使い勝手が良かった。続けて気になってくるポイントがAFの動作速度だ。
まず大前提となる点が、X1D II 50CのAFはコントラスト式だということ。専用のXCDレンズとの組み合わでは、無音かつ素早い動作が得られるが、Hシステムレンズはそもそも設計思想が異なるし、技術的な年次も異なる。当然専用レンズとの組み合わせと同等の速度は望むことはできないのだが、実写してみた感覚だと十分に実用的だと感じた。むしろローライト下でもしっかりと合焦が得られたことに、嬉しさを感じたほどだ。光量がしっかりとある条件であれば、ストレスを感じることはないだろう。
強烈な逆光が石畳に反射しているシーン。自然と明暗差が大きくなる条件だが、ハイライトもシャドーもしっかりと階調が残っている。本記事では原則として同時記録したJPEG画像を無加工で掲出しているが、RAWデータ(ファイル形式は3FR)であれば、より編集加工の自由度が高い画像を得られることだろう。
HC 2,2/100の描写には優しさをともなった柔らかさがあると思う。格子の木の質感はもとより、光と影にすら質感が感じられる。かといってシャープさに不足があるかというと、そうした印象はない。彩度の出方もほどよく低めで、ずっと見ていても疲れないところからも、バランスの良い組み合わせだと感じる。
絞りを開放にすると、若干の周辺光量落ちが見られる。ただ、光量落ちがあると言われなければ、それと気づかないほど軽微なものなので、光量落ちを不要とする作画意図がある場合でも問題となることは少ないだろう。被写体としているビルと距離があるということもあるけれど、描写はおそろしくシャープ。屋上の人々の姿すらも視認できるほどの解像が得られている。空のグラデーション再現やヌケ感もよく、間に光学系を備えたコンバーターがあるとは思わせない描写が得られている。
光学系を備えるコンバーターで、もうひとつ気になるのが歪曲の有無だ。レンガ組みの壁面で縦横それぞれに歪みがないかをチェックした。そもそも100mmのF2.2というスペックからは想像できないほど、本レンズはコンパクトなサイジングであることから、設計上でも何かしら無理をしているのでは、などと考えていたのだが、実写では実に気持ちのよい描写が得られた。中央・四隅ともにピシッとした直線で、スナップだけでなく人物・ブツ撮り・建築など、あらゆる場面で使い勝手のよい組み合わせとして活躍してくれそうだ。壁面に落ちる木のシルエットと、トーン描写も美しい。
水の質感描写も程よいバランスだ。彩度は低めながらもコントラストのノリが良く、水面に映る紅葉や、水面に落ちたモミジの葉、水面上に落ちている細かなチリも余すところなく描写している。
基本的に彩度が低めの描写が得られるという感覚があるが、光線状態によっては、少し固めの描写になることもある。付属のフードはしっかりとした金属製で深さも十分。光の状態をうまく活用することで、硬軟の描き分けができるという点は大きな魅力だろう。
ある程度柔らかさを備えているレンズは、光の描写が繊細であることが多いと感じているが、そうした感覚を実感に変えてくれた。室内の光量は電灯のついていない洋館といったイメージで、ほの暗い程度。このシチュエーションだとAFに若干の迷いがみられた。
水面に電灯光が反射しているシーン。風があったこともあり水面のゆらぎが大きく、AFでの合焦には難渋するだろうと思っていたが、それほど苦労することなく動作。画面後ろのほうの黄色味の強い部分にひっぱられた。手前側はボケ具合とゆらぎ感がほどよく調和し、かえって面白い描写になった。
逆光条件だけれども、直接光線を画面にいれないように位置を調整した。窓面のチリや桟にたまった汚れがリアリティを高めている。窓枠は平面的な造形ではなく台形状に加工されているが、シャドウにツブレてしまうことなく、ギリギリのところでディティールを保持している。こうした明暗の描写を何事もなかったかのようにやってのけてしまうあたりが、やはり大型センサー機ならではの魅力だと感じる。そして、繊細な光を描くレンズの性能もまた、確実に高い次元にあることも、そうした実感を押し上げてくれる秘訣なのだと気づく。
原色系の色の出方も素直だ。トーンも豊かで、目の前の空気感をそのまま定着してくれているようにも感じられる。白面がとくに調整することなく、しっかりと「白」として描き出されているあたりにも忠実な色再現が得られていることがわかる。
芝生の上に色づいた落ち葉が2枚。何てことのないシーンだけれども、少し絞るだけで触れることができそうなほどのリアリティで再現できる。直前のカットで発色面でもきわめてニュートラルだとお伝えしていたが、芝生の枯れ具合や落ち葉の生々しさからは、ネイチャー系の撮影でも活用できそうなポテンシャルが感じられる。黄色も濁ったり飽和することなく、きわめてニュートラルな発色だ。
柔らかさが感じられるレンズだが、シャープネスに不足があるかというと、そうした心配は喜憂になる。このカットでは絞りをF2に設定。わずかに絞っているだけだが、前ボケの具合や風に流れる柳のしなやかさが伝わってくる。葉の一枚一枚からもしっかりとした立体感が感じられる。
晴天下での樹木カットも。樹皮の質感、葉の一枚一枚の描写、色づく実、奥側で繁茂する枝葉との遠近感などのバランスが良いと感じる。質感はやはり触れることができそうなほどのリアリティがある。解像性と空気感の描写バランスがいいのだろう。
日没前の夕陽をビルで隠してみた。夜に向かう空のトーンと、その寂しさを強調するような木の雰囲気が主役だ。感情を景色に乗せることはできるのかな、と思っていたのだが、意外とできるものなんだな、と実感。木の枝葉が目に痛いほどの解像となっていることや、立体感のある描写が得られていることが、成功のヒケツだろうと思う。
夜景シーンでのAFは意外にも安定していた。LEDの光が比較的強いことも理由だったのかもしれないが、驚くほどスムースなAF動作と、これまでお伝えしてきたとおりの繊細なトーン描写で、その場にいるかのような空気感で描き出すことができた。口径食は見られるし、玉ボケの中央部には十字状の模様もみられる。ただ一方で年輪ボケはみられないし、やはり間に光学系アダプターを挟んでいるとは思えないほどのクリアーな描写は、とても気持ちがいい。
総括
XHコンバーター0,8とHC 2,2/100の組み合わせは、コンバーターの縮小光学系により焦点距離が80mmとなり、35mm判に換算すると62mm相当となる。システムとしての大きさは中々の大きさになるし、重量も2kg近くなるため、少しばかりの気合は正直必要だったものの、中判クラスというイメージからは拍子抜けするくらい軽快なスナップが楽しめた。
縮小光学系の副産物として、開放F値が明るくなる点もポイント。F2.2からF1.8となるため使い勝手が良くなる点も大きな魅力だ。大型センサーならではのメリットとして、開放絞りだとF1.8でも被写界深度はかなり浅くなる。ふだん35mm判やAPS-Cサイズセンサーを搭載するカメラを使用している感覚からすると、撮影結果を確認した時に「まだ絞らないとダメなの?」といった感じで、イメージしていた画と実際の撮影結果の開きに戸惑ってしまった。だが一方で、撮影結果をイメージに近づけていく過程での試行錯誤はとても楽しい時間だった。思わぬ結果から新鮮な気づきを得ることもあるし、インスピレーションが得られることもある。想像や試行錯誤で結果を追い込んでいく楽しさは、一眼レフ機でもミラーレス機でも本質的に同じことだと思う。
脇道に逸れてしまったが今回試用したHシステムレンズの1本「HC 2,2/100」を使った限りでいえば、XHコンバーター0,8は十分に実用的な結果をもたらしてくれた。無論、専用のXCDレンズに比べればフォーカススピードは一歩劣るし、モーター駆動音もあるため、静粛性が求められる場でAF使用することはためらわれる。しかし、本来X1D II 50C自体が1枚1枚にしっかりと向き合って撮影していくカメラであることを考え合わせると、ちょうどよいペース感になると感じたことも事実だ。言いかえるならば、丁寧に被写体と向き合うイメージ。HC 2,2/100のしっかりとしたシャッター動作も手伝って、一カットを撮影したという実感が得られた。
撮影時にも実感できたことだけれども、画像をチェックしている時にも、コンバーターを介しているとはとても思えないヌケ感の良さが光る。強い光源が画面に入り込むシーンであっても、ほぼコントラストの低下はみられない。内面反射の面でも、アダプターの存在を感じさせない描写からは、少々高めのお値段にも、ある程度納得できてしまう。それでも値がはるのは確かだが、それだけの価値があると思わせてくれる。ちなみに価格はオープンプライスで、店頭での予想価格は税別でおよそ11万円ほどになる見通しだという。
数日間手持ちで撮り歩いてみて気づいたことがいくつかある。一つ目は重量面でのバランスだ。今回はX1D II 50Cとの組み合わせで試用したが、本コンバーターは当然ながら907X 50CでHシステムレンズを使うことも可能にしてくれる。ただ、レンズ側だけでも相当の重さとなることを考えると、X1D II 50Cを使用したほうがトータルでの使い勝手は良いだろうとの判断から、今回の組み合わせにて試用していったのだ。さて、重量面での気づきだが、いま説明したようにレンズ側ヘビーになるので、グリップの良さが際立ったのだ。
X1D II 50Cも先代のX1D 50Cもグリップが大型で、握り込みの深さもしっかりとある。まずこれだけでもストラップなしでの把持が可能となる。さらに長時間歩いてみて気づいたのが、グリップのクッション性だ。X1D II 50Cはアルミからの削り出しボディであるため、グリップ自体は本体に張りつけられているだけだ。しかし、この素材の厚みが相当にあるのだろう。強く握り込んでも指や手が痛くならなかったのだ。特にレンズ側に重量がくるため自然とボディを握る手にも力が入るのだが、それをしっかりと受け止めてくれるあたりに、舶来カメラに抱いていた“ぬくもりのなさ”というイメージが払拭された。長時間は難しいけれども、片手持ちでの使用もできたこともあり、むしろボディのつくり込みの良さを実感するきっかけともなった。
もう一つは、AF性能と撮影レスポンスの足並みの良さ。爆速AFでも書き込み性能が足をひっぱっていたりする機材も散見される中で、本機はあらためてこの両者のバランスをとることの必然性を教えてくれた。撮影を進める中でストレスになる要因は、どちらかが突出していて、片方が追いつかないことが理由のひとつだったのだと感じる。無論、いつでも撮影できる状態を維持していて、撮影者の意思や意図に的確に反応してくれるカメラであることが一番だが、あえて作法であったり居住まいを正す姿勢で扱うカメラがあってもいい。その上で、インターフェースもグラフィカルなタッチ操作を主体に、階層も浅めに設計されていて、初見でも戸惑うことなく操作できる。改めて考えていくと、今回の撮影ではカメラに教えられることがとても多くあった。
繰り返しお伝えしてきたことだけれども、柔らかさの中にシャープな描写と、有効約5,000万画素のセンサー性能をしっかりと引き出してくれるコンバーターの存在は、Hシステムユーザーでなくても、あえて使ってみたいと思わせてくれるだけの味わい深さをもたらしてくれるのではないか、と感じた。
からの記事と詳細 ( Hasselblad:X1D II 50C+XHコンバーター0,8 - デジカメ Watch )
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