――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
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「次のテスラ」を探している投資家に役立つ経験則がある。企業の説明資料に載っている未来的な車が実際に路上を走りだすまで、待つことだ。
電気自動車(EV)を手掛ける新興企業は特別買収目的会社(SPAC)を通じて相次ぎ株式市場に上場している。その最新の一社は米ファラデー・フューチャーだ。長年にわたって財政面で問題に見舞われてきたが、同社初の高級EVを来年発売するため、ようやく合意にこぎつけた。ファラデーを買収するSPACのプロパティー・ソリューションズ・アクイジションの株価は1月28日の発表以降、40%超上昇している。
ここ半年ほどに同様の合併計画を発表したEV新興企業とSPACは十数社に上る。各社の合意を背景に売買高が急増し、バリュエーションは投機的な範囲はおろか、理解不能な水準にまで押し上げられている。さらに高バリュエーションのテスラ株の高騰が示すとおりだ。
全ての新興企業がファラデーやフィスカーのようにテスラと正面切って競争を挑むわけではない。フィスカー(カリフォルニア本社)は高級EVを開発中だ。一方で、商業輸送用のバッテリー搭載EV(ローズタウン、アライバル、カヌー)や、水素燃料トラック(ニコラ)、次世代型バッテリー(クアンタムスケープ)開発を目指す企業もある
ただ、これらの企業に共通するのは、財務状況を一変させ、バリュエーションを2~3年かそれ以上にわたって正当化する上で、大型製品に依存していることだ。新規参入が増える市場で、そうした製品全てが期待に応えられるわけではないが、その幾つかは期待を満たすかもしれない。だが、それがどの製品かを知るにはどうすればよいか。
投資家が一定の知識に基づいて推測できる唯一の方法は、成功を左右する車両がショールームに到着するのを待つことだ。今のところ、投資家は企業にまつわるストーリー以外にほとんど手掛かりを持たない。創業者の履歴、写真、自動車の製造・販売に関する従来型事業モデルの変更、そしてたいてい払い戻し可能な受注予約などだ。テスラの歩んできた道は示唆に富む。高級セダン「モデルS」で成功を収め始めた2012年になって初めて、同社株は急騰した。
乗用車に関しては、おそらく主力製品とその反響を見届けるのが最も重要だろう。乗用車は機能的な理由と同じくらいに、感情的な理由で選ばれるからだ。とはいえ、それは商用市場でもやはり重要だ。バドワイザーを製造するビール大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)はニコラに大型トラック最大800台を発注しているが、こうした大口顧客からの受注は、約束通りの仕様で量産できなければ余り意味を成さない。
「アップルやテスラで見られたように、消費者向けテクノロジーへの投資を確信させるのは、製品に対する顧客の反応だ」と仏資産運用会社カルミニャックの株式部門責任者デービッド・オールダー氏は語る。同氏は昨年、新車の発売が好評だった中国のEVメーカー、蔚来汽車(NIO)と小鵬汽車(Xpeng)の2社に投資した。ただ、バリュエーションの急騰が警戒信号を発し始めたこと受け、10-12月期に全保有株を売却したという。
米新興企業のケースでも、相互の比較を含め、バリュエーションはほとんど不合理だ。SPACとの合併が既に完了した企業のうち、時価総額がとりわけ大きいニコラとクアンタムスケープは、それぞれ水素と全固体電池という最も成熟度の低い技術を手掛けている。投資家は製品発売を巡る高リスクな現実より、遠い将来のディスラプション(創造的破壊)に一層の関心をひかれているようだ。だが、テスラの模倣企業で生き残る可能性があるのは、まさにテスラのように、自社の車両と生産を軌道に乗せることができる企業だ。
1920年代には自動車販売台数が急増したにもかかわらず、自動車メーカーの数は欧州と米国の双方で激減した。量産の資本要件はあまりにも困難を伴い、それを満たせるメーカーはほんの少数に限られた。1920年代の終わりには、ゼネラル・モーターズ(GM)フォード、クライスラーが米国の販売台数のほぼ8割を占めていた。EVが普及していく2020年代も、それと大きく変わらないのかもしれない。
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