「ある理由」から、中国のもとに久しぶりに集まった、各国に散らばる家族たち。そこで繰り広げられるカルチャーギャップを、ユーモアとペーソスたっぷりに描き大ヒットした『フェアウェル』(日本では近日公開)。主演のオークワフィナがゴールデングローブ賞でのアジア人初の主演女優賞の獲得するなど、大きな話題を読んでいます。自身の体験をもとに描いたこの作品を作ったのは、中国生まれでアメリカ育ちの監督ルル・ワンさん。ハリウッドで公然と行われてきたハラスメントを目にしてきたと語る彼女が、ハリウッドの多様性の今に感じることとは?
―この作品は、中国生まれアメリカ育ちの監督が、中国の祖母のもとで実際に体験したことをもとに描いていますね。最も驚いたカルチャーギャップは、どんなものでしたか?
映画の中心となっていること—―医師の余命宣告を、家族たちが当事者である祖母に伝えなかったことです。人間の生死に関わることで嘘をつくなんてことがありえるのかと。中国や日本などのアジアの人々が集団を重んじる文化であることーー家族の中の年長者にたいして背負う義務や、それが個人よりも優先することことなどーーは、頭では理解していたんですよ。そうであったとしても「嘘つくんだ……」というのが。ぜんぜん知りませんでしたし。
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—主人公は祖母に病状を隠すことに終始葛藤してますよね。
でも彼らが嘘をつく理由が少しずつわかり始めてくると、逆に「真実、自由、独立」を重んじるアメリカ的な価値観が、ベストではないかもしれないーー少なくとも唯一ではないなと思うようになりました。自分とは異なる価値観に触れ「そういうこともあるんだ」と知ることはすごくいいことだし、登場人物たちもそういうことを経験していると思います。
―作品を作る時に一番大事にしたことは?
自分が経験した「トーン」を伝えたいというのが、一番だったかもしれません。当初から「このテーマをこんな風に伝えたい」と理性的に決めたわけではないんです。というのも当時の私が感じていたものは、愛とか怒りとか混乱とか……とにかく色んなものが入り混じった複雑な感情で。
例えば、愛しているけれど全く意見が合わない相手、私を「間違っている」と否定する相手、それに対する怒りとか……そういうものとどう向き合い、どう伝えればいいのか分からなくて。家族全員の痛みとそれぞれの向き合い方を描きたかったし、「ある部分では分からなくもない」と自分を諌めながら、考えていました。
そして悲しみや痛みの中にある家族たちの間に、不思議に否応なく立ち現れるユーモアも描きたいなと思っていましたね。
―久しぶりに集った家族の会話で、浮き彫りになる彼らの自己矛盾がコミカルです。例えば「結婚は人生の支え」と言う祖母は夫に先立たれて他人と暮らしているし、「アメリカの価値はお金じゃない」と言う母は、夢を追う娘の貧乏ぶりにいつも苛立っていますね。
キャラクターに人間味を持たせたくて。もともと私は物事を白黒はっきり分ける二元論的な物語が好きではなく、人物も様々な側面から捉えたいし、「善悪」や「中国派とアメリカ派」と明確にしたくありません。それに人間って特定のレトリックで型にハマった人ほどーー民主党員と共和党員とか、右とか左とかーー実際の行動が伴っていなかったりもするものですよね。
―そして、あのラストには……文字通り「えっ!」と声を上げてしまいました。
人は常に自分たちの選択を正当化する方法を見つけようとします。物事がどういう結果に終わったとしても、その部分は変わりません。ただ出来事にはどこかミステリアスなところがあって、私はその部分は謎のまま残ってほしいなと思うんです。祖母についた「嘘」が正しかったか間違いだったかは、私には大した問題ではありません。私にとってこれは、意見が違う相手を受け入れることと、理解することを描いた物語なんです。
―今回の映画の主人公は、キャラクターとしても、演じるオークワフィナさんも、いわゆる女性のステレオタイプとは異なります。そうしたことは意識したことですか?
今回の場合は、意図的に考える必要はなかったんです。というのもどの人物も自分の実際の家族がモデルで、まさに自分の内側から出た物語だったから。
例えばヒロインの母親は典型的な「タイガーマム(厳しいお母さん)」と思われるかもしれませんが、それを恐れてはいませんでした。自分の母親をそのままリアルに描いただけだったので。確かに実際のモデルがいない人物を作る時は「ステレオタイプを避けよう」と思うかも。でもそう思うことでまた別の罠にハマりそうだし、考えないかもしれません。
―ご自身は女性だからできる表現や、逆に男じゃないとでから出来ないって言われることとかそういうことに対してどんなふうに考えていますか?
誰が何を表現できるかできないか、私には言えませんが、そもそもそういうルールなんてないですよね。私自身に関して言うなら、内側にある経験から外側へと生み出された物語であることが大事かなと。
というのも、実際の経験がないまま、つまり外側から描かれた作品って、危険だと思うんですよね。外側の人は、ステレオタイプ的な表現に陥りがちだし、物事をロマンチックに見てしまうところがありますから。例えば暴力表現。ただでさえ美化されがちな暴力を、さらに助長することになってしまうから。物語を中心を誰に据えるかも重要です。例えばアンチヒーローは、やってることは悪役と変わらないのに、例えば「ジョーカー」のように物語の中心に置かれると、観客の共感を獲得してしまいます。
そして共感を得やすい「中心に据えられる人物」が、同じような人物像であることも多いですよね。今後はこれまで「中心に据えられたことのない人物」ーー敵のように扱われていたキャラクターや、あまり重要視されてこなかったキャラクターを中心に据えて、観客の共感を得る物語を作っていくことも大事かなと思います。
―世界で起こっている「#metoo」の流れについて思うところを。
ハリウッドでここ100年、あるいはそれ以上の歴史で起きたことの中で、最も重要な出来事だったと思います。よく「変化には時間がかかる」と言いますが、これは本当に一夜にして、あっという間に起きた変化でした。そうはいっても、ずっと前から起こってしかるべき変化だったと思います。
—ご自身が実際に#MeTooの体験したことはありましたか?
私もLAに引っ越した当時、いろんな現場で、差別やセクシャルハラスメント、パワーハラスメントなど、様々に腐敗したことを体験しました。しかもそれらは隠そうとすらされていおらず、公然と行われていたんです。ものすごくあからさまに。#MeTooの流れのおかげで今は改善されてきてはいますが、「行きすぎている」と言う人もいる。私は全くそうは思いません。性別に限らず、誰もが相手を不愉快にさせるような発言には気を配るべきだし、そうした新しい状況に慣れることが必要だと思います。そして、権力の力学や、待遇の不均衡に対する認識を改めることも。
今私が手掛けているテレビのシリーズでは、複数いるライターもみんな女性です。主人公たちが女性だったので、女性ライターを起用するのがいいだろうなとは思っていましたが、意図的にそうしたわけではありません。男性ライターも面接しましたが、残念ながら力量の問題で、女性のみの、でも最高のチームになりました。
5 QUESTIONS ABOUT MOVIE
1.監督になろうと思ったきっかけは?
幼い頃からクラシックピアノを学んでいましたが、母親が文筆業だったので「モノを書く」こともやっていました。このふたつはひとりで創るアートだったけれど、私は実は誰かと一緒に作業するほうが好きだったんですね。でも「物語を語ることが好き」という自覚はあったので、大学時代には、ジャーナリストか、それとも作家か、と考えていたんです。そういう中で、大学4年の時に、たまたま受けた映画の授業で、これだ!と思ったんです。様々な形のアートと、他者とのコラボレーションという、わたしの好きなものが全部詰まっているなと。
2.影響を受けた映画は?好きな監督や、生涯のベスト1なども教えて下さい。
生涯のベスト1は難しいわ、たくさんあるから。今回の作品に関することで言えば『ヤンヤン 夏の思い出』。エドワード・ヤン監督には非常に影響を受けていますし、小津安二郎監督、是枝裕和監督……今回のトーンとしては是枝作品の影響のほうが強いかもしれません。北欧のダークコメディ、リューベン・オストルンド監督の『フレンチアルプスで起きたこと』や『ザ・スクエア 思いやりの聖域』とか。あとはイギリスのマイク・リー監督。特に演出の仕方、ユーモアなんかはそうですね。
3.ちなみに是枝作品で好きなものは?
『歩いても 歩いても』と『そして、父になる』です。
4.作品作りで大事にしていることは?
作品を作る時は常にバイアス無く様々な視点を描き、互いを理解できるようなものにしたいと思っています。例えばインド系シーク教徒のアメリカ人のキャラクターを描く時に、その独特の視点はどんなにリサーチしても得がたいものです。そういう意味でも、作り手側が多様であることは大事なことだと思っています。
5.座右の銘は?
心に留める言葉はたくさんありますが……そうですね。多くの人が言うことで、別に特別なものではありませんが、「自分がコントロールできるものはコントロールする、できないものは手放す」というような考え方でしょうか。
特に映画作りは、「運」「天気」「制作費」などというものに影響されることが多く、それが揃わないことで、時に悲惨な状況に陥ることもあるんです。そういう中で自分のメンタルを保たねばと思う時に、こんなふうに考えます。
コロナウィルスのパンデミックの渦中にいる今も、同じようなことを思っています。パニックにならず、自分にできることをやり、自分にはどうすることもできないことは、抱え込まずに手放す。ウダウダと思い悩んでもしょうがありません。
ルル・ワン/ 1983年に中国の北京に生まれ、アメリカのマイアミで育ち、ボストンで教育を受ける。クラシック音楽のピアニストから映画監督に転身。短編ドキュメンタリーと短編映画を監督した後、『Posthumous』(14/原題)で長編映画監督デビューを果たす。2014年のインディペンデント・スピリット賞において、チャズ&ロジャー・イーバート・ディレクティング・フェローシップを受賞。また、2014年のフィルム・インディペンデント・プロジェクトの監督に選ばれ、2017年のサンダンス・インスティテュートが選ぶ長編2作目の監督を支援するプログラム“フィルム・ツー・イニシアチブ”に招待される。さらに、「Variety」誌の“2019年に注目すべき監督10人”の一人に選ばれるなど、今最も期待されている監督。長編映画監督2作目となる本作は、2019年のサンダンス映画祭ドラマコンペティション部門でプレミア上映され、数々の賞を受賞している。
『フェアウェル』
NYに暮らすビリー(オークワフィナ)と家族は、ガンで余命3ヵ月と宣告された祖母ナイナイに最後に会うために中国へ帰郷する。家族は、病のことを本人に悟られないように、集まる口実として、いとこの結婚式をでっちあげる。ちゃんと真実を伝えるべきだと訴えるビリーと、悲しませたくないと反対する家族。葛藤の中で過ごす数日間、うまくいかない人生に悩んでいたビリーは、逆にナイナイから生きる力を受け取っていく。ついに訪れた帰国の朝、彼らが辿り着いた答えとは? 近日公開。
http://farewell-movie.com/
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