2019年12月30日夜、台湾の台北市中心部にある与党、民主進歩党の立法委員(国会議員に相当)候補者の選挙事務所。スタッフたちが忙しく動き回っていた。メディアの世論調査で「苦戦」と伝えられていたこの女性候補をてこ入れするため、この日、党本部から応援チームが派遣されていた。18年に京大経済学部を卒業した党国際部の職員、郭瑞(かくずい)さん(25)はその一人だ。
高校は台中市内の進学校だった。経済学者になりたかったため、地元の大学に進まず、経済理論の研究が進んでいる京大を留学先に選んだ。建築士の父親は日本式建物が好きで、子供の時に何度も父親に連れられて訪ねた京都で暮らしてみたいというのも理由の一つだったという。
台湾にいたときはあまり意識しなかったが、日本で生活してみると、周りに中国人が大勢いたため、「自分は台湾人」と強く感じるようになった。生活習慣も考え方も違うのに、中国人として扱われることが多く悔しい思いをした。
14年に台湾で、中国とのサービス貿易協定に反対する若者たちが立法院(国会)を占拠した「ヒマワリ学生運動」が起き、国際社会に注目される大ニュースになった。抗争しているのは同じ世代だった。日本にいて何もできない自分にもどかしさを感じた。仲間と一緒に「関西地方台湾留学生会」を立ち上げ、台湾を応援する活動を始めた。
海外にいると、中国政府がいかに台湾を矮小(わいしょう)化し、外交的、経済的に台湾をのみ込もうとしているかがよく分かる。「何もしなければ台湾はあっと言う間に併合されてしまう。現状を維持するだけでも、相当な努力が必要だ」と感じ、「台湾の政府はよく頑張っている」と思ったという。
大学卒業後、兵役を経て民進党の職員になった。今年の総統選は絶対に負けられないので、「台湾の民主主義と自由を守るために少しでも貢献したい」というのが理由だ。
今は党の国際交流を担当している。党本部を訪ねてくる外国の学者や政治家に対応するのが主な仕事だ。「米国、東南アジア、仏独などいろんな国の人が来るが、日本人が意外に少ない」
「日本人にもっと台湾の政治に関心を持ってほしい」と寂しそうに語った。
(台北、矢板明夫 写真も)
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米中の代理戦争とも呼ばれる11日投開票の台湾の総統選。親日米派と呼ばれる民進党陣営と、親中派の中国国民党陣営の攻防が激しさを増している。社会の分断も同時に進んでいる。台湾で生きる人々は何を考え、台湾はどこに向かうのか。市民の声を聞きながら考えてみたい。
2020-01-05 11:20:00Z
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