疑惑の「タマネギ男」チョ・グク氏の法務部長官(法相)任命問題が混乱を招き、「休戦状態」になっていた日韓経済戦争のゴングが再び鳴り響いた。
文在寅(ムン・ジェイン)政権が2019年9月11日、日本の輸出規制強化が「差別的だ」として世界貿易機関(WTO)に提訴したのだ。韓国メディアは「韓国政府、69日ぶりに剣を抜いた」(ハンギョレ)などと大騒ぎだが、WTOをめぐってはもう一つの「日韓激突」も話題になっている。
同じ日に日韓の別の紛争事案の判断がWTOから下されたが、日韓いずれも「勝利宣言」を行なった。いったい、どうなっているのか。韓国と日本の新聞から読み解くと――。
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WTO提訴を発表するユ・ミョンヒ通商交渉本部長(ハンギョレ9月11日付より)
「疑惑」のスタート場所から「克日」宣言した文大統領
聯合ニュース(2019年9月11日付)「日本をWTOに提訴へ 『政治的な動機による差別措置』」はWTO提訴の理由をこう伝えている。
「韓国産業通商資源部のユ・ミョンヒ通商交渉本部長は9月11日、記者会見を開き、日本政府の対韓輸出規制強化措置は不当だとして、『政治的な目的で貿易を悪用する行為が繰り返されないようWTOに提訴した』と発表した。ユ氏は『日本の措置は、日本政府の閣僚クラスによる何度かの言及に表れたように、韓国大法院(最高裁)の強制徴用判決に関連した政治的な動機でなされたもの』と述べ、『わが国を直接狙った差別的な措置』と指摘した」
「放射能に汚染されている」として、日本8県の水産物を禁輸した措置をめぐる紛争で今年4月に「逆転勝利」を勝ち取ったメンバーを中心に、日本の不当性を指摘する戦略を立ててきた。ユ氏は、提訴の発表と同時に日本に対し「二者協議」を公式に要請した。WTOの紛争手続きでは、日本が二者協議に応じなかったら正式の「裁判」になる。過去、二者協議が行なわれなかった事例はないから、韓国の狙いは、これまで協議に応じてこなかった日本を交渉のテーブルにつかせることが大きい。
8月中に提訴する予定だったが、チョ氏の疑惑問題で国中が沸騰する騒ぎになり、日韓問題どころではなくなった。しかし、9月9日にチョ氏を法務部長官に強行任命、ひとまず騒ぎが収まり、日本対抗策に打って出た。そんな文大統領の「余裕」を、韓国経済「『チョ・グク悩み』終えた文大統領、克日の歩み」(9月11日付)がこう伝える。
「チョ・グク氏を法務部長官に任命した文大統領はすぐさま克日(日本に打ち克つ)の動きに出た。文大統領は9月10日、就任後2度目の現場国務会議(編集部注:現場に出張して開く閣議)の場所に『科学技術の産室』とされる韓国科学技術研究院を選んだ。日本の輸出規制を克服するために、素材・部品・装備産業の競争力を強化しようという趣旨だ」
「文大統領は『誰にも揺さぶることのできない強い経済を作るという非常な覚悟と意志を込め、科学技術研究院で国務会議を開くことになった』と述べた。『競争力強化は経済大国のための戦略課題であり、韓日関係の次元を超えて韓国経済100年の土台を立てること』と強調した」
ところで、現場国務会議の場所を科学技術研究院に決めた点もメディアの注目を集めた。じつは科学技術研究院は、チョ・グク氏の娘が釜山(プサン)大学医学専門大学院の入試に活用したインターンシップ証明書が虚偽・不正発行されたとして、メディアの取材が殺到した場所なのだ。文大統領は、あえて疑惑がスタートした場所を選び、「克日」の戦いの第2ラウンドを国民にアピールした。
「13件に1つ勝っただけで勝訴とはおこがましい」
さて、9月10日(日本時間11日)、スイス・ジュネーブにあるWTO上級委員会(裁判でいえば二審・最終審)は、韓国による日本製バルブへの反ダンピング(不当廉売)課税をめぐる日韓の紛争事案について、韓国側のWTO協定違反を認定する判断を発表した。
その内容を日本メディアは、「韓国に勝訴、WTO最終判断」(日本経済新聞)、「日本、勝訴確定」(産経新聞)などと軒並み「勝訴」と報道した。たとえば、時事通信(9月11日付オンライン版)「WTO最終審でも日本勝訴」はこう伝える。
「世界貿易機関(WTO)の最終審に当たる上級委員会は10日夕(日本時間11日未明)、韓国が日本製の産業用空気圧バルブに課した追加関税について、WTO協定違反とする判断を下した。一審の紛争処理小委員会に続き、関税の是正を勧告し、事実上の日本勝訴が確定した。日本は韓国に速やかな関税撤廃を要求する。ただ、韓国が反発すれば、日韓対立の新たな火種になる可能性もある」
ちなみに経済産業省は11日、ホームページ上にWTOの決定概要を公開している。
ところが、9月11日付の韓国紙は、「韓国、大部分で勝訴」(中央日報)、「韓国が『判定勝ち』」(ハンギョレ)、「韓国、大部分勝訴」(朝鮮日報)など軒並み「勝訴」と報じたのだった。たとえば、「判定勝ち」というハンギョレ(9月11日付)はこう伝える。
「韓国が『判定勝ち』をおさめた。WTOの上級委員会は、13個の争点のうち10個の争点で韓国の手をあげて、『韓国の措置の協定背反性が立証されなかった』と判定した。ただし、3個の争点に対しては日本の勝訴判定を下した。日本は判定の一部を前面に押し出して、自分たちが勝訴したと主張している。韓国産業部の関係者は『今回の場合は韓国が圧倒的に勝った判定』と説明した」
いったい、どうしてこんな記事になるのだろうか。それは、聯合ニュース「日本をWTO提訴」(2019年9月11日付)の中で、記者団とユ・ミョンヒ通商交渉本部長とで交わされた一問一答を読むと、よくわかる。韓国政府が日本をWTOに提訴した際の記者会見だが、日本製バルブの最終決定についても質問が出た。
――(記者団)昨夜、WTOの最終決定が出された韓日の紛争で、日本は自国が勝訴したと主張している。
ユ・ミョンヒ通商交渉本部長「紛争の結果が出てから互いに勝訴を主張することは国際的によくあるが、今回の件で日本が勝訴を主張していることはやりすぎだと思う。日本が提起した13件の争点のうち10件については韓国が確実に勝った。2件は手続き面の事案だ。1件だけ適切に調整すればいいが、これをもって韓国の敗訴だというのは我田引水だ」
韓国政府の高官が、真っ向から自国の敗訴を否定したのだった。
「微々たる貿易額だし、勝敗は無意味だ」
また、朝鮮日報(9月12日付)「WTO反ダンピング紛争判定に韓日いずれも『勝利宣言』」は、韓国側のこんな「論理」を展開している。
「韓国と日本は9月11日、WTOの判定について、互いに勝利したと主張し合った。判定の要旨は『日本が提起した13点の争点のうち10点は韓国の主張が正しく、3点は日本が正しい』というものだ。WTOの判定をめぐり、両国がいずれも勝利したと主張したのは、WTO判定の特殊性のせいだ。WTO判定は有罪か無罪かを判断したり、両国のどちらが『正しい』と簡潔に判断したりはしない。争点別に各国の主張を細分化し、どちらの主張が妥当なのかを検討する」
「今回も、韓国は『WTOが13点の争点のうち10点について、韓国の立場を支持した』として、韓国の勝利と受け止めた。日本は『重要な1つの争点で勝訴し、実質的な勝利だ』との立場だ。仁荷大のチョン・インギョ教授は『WTO紛争は争点別にどちらの主張がより妥当なのかを判断する場であり、勝敗を争っても無意味だ』とした上で、『激しく対立している両国が無理に自国の勝利だと主張している』と指摘した。韓国の日本製バルブ輸入規模は年間500億ウォン(約45億円)程度で、両国の貿易規模に比べれば微々たる水準だ」
こうした韓国の動きと論理に産経新聞「WTO続く日韓対立 バルブ勝訴 韓国は撤回否定的」(9月12日付)は怒り心頭だ。
「(韓国政府高官の発言に)日本政府は『WTOの紛争解決で日本に負けたという〝不都合な真実〟を認めたくない韓国国内向けの強弁だ』(経済官庁幹部)などと冷ややかだ。日本は韓国が是正措置を取らない限り、韓国からの輸入品に追加関税を課すなどの対抗措置が可能となる。韓国政府は不都合な真実から目をそらすかのように、日本のWTOへの提訴を発表した」
日韓の対立はWTOを舞台にさらに激化することになりそうだ。
(福田和郎)
2019-09-12 10:00:00Z
https://www.j-cast.com/kaisha/2019/09/12367442.html?p=all
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