今週、立て続けに日韓のWTOに関する案件が報道されました。
まず、産業用バルブに対する韓国のアンチダンピング関税に関する結果ですが、なんと日韓双方が勝訴を叫ぶという事態になっています。どういうことなのでしょうか?
■どこを勝利したと言っているのかその差を見てみる
今回のWTO紛争は、2015年に日本企業が国内価格よりも安い価格で、韓国に産業用バルブを輸出しているとして、最大22.7%のアンチダンピング関税を課したことが発端です。なので当然、このアンチダンピング関税が適正がどうかが争点です。それを踏まえて日韓両国の主張を見てみましょう。
「なぜ?WTO紛争で日韓とも「勝訴」を主張する事態に=韓国ネット「どう見ても日本の完敗」「WTOは賢い」」2019年9月11日
WTOは日本が提起した13件の争点のうち10件について「韓国の措置はWTO協定に違反しない」、3件について「協定に合致しない」と判断したが、同部はこの3件について「手続きと方法論についての問題であるため紛争の核心的事案とは関係ない」と判断したと説明。チョン局長は「WTOの最終判断に基づき多少調整することはできるが、措置を却下または取り下げよと主張するのは間違い」と強調したという。
https://www.recordchina.co.jp/b744057-s0-c10-d0058.html
韓国は、日本の主張を認めた部分のWTOの判定を、「核心的事案でない」としています。一応「多少調整することはできる」と幅を持たせていますが、「措置を却下、取り下げよ」という日本の主張を認めていません。
対して日本は単純明快です。
「韓国の反ダンピング課税はWTO違反 日本の勝訴が確定」
報告書は30日以内に正式に採択される。経済産業省は11日、韓国が報告書の勧告を早期に履行し、本件措置を速やかに撤廃することを求めるとし、「仮に韓国が勧告を履行しない場合には、WTO協定が定める手続きにのっとり、対抗措置を発動することができる」とした。
https://www.asahi.com/articles/ASM9C027CM9BULFA03J.html
「勧告を履行しろ。でなければ対抗措置を取る」ということですね。この対抗措置ですが、即座に行うことはできません。そして手順を踏む必要があります。
韓国がすぐに履行できない場合には15カ月間を越えない範囲で猶予期間が与えられる。
この期間内に勧告などを履行できなかった場合には日本は代償を求めることができ、一定の期間の間に代償について合意ができなかった場合は、日本は対抗措置を取ることについてDSBの承認を求めることができる。DSBは全加盟国が異議を唱えない限り採択されるネガティブ・コンセンサス方式を採用しているため、DSBの承認が得られるのはほぼ確実。
https://maonline.jp/articles/wto_japan_korea20190912
つまりWTOの紛争解決機関(DSB)に、「対抗措置を取りますよ」と承認を求める必要はありますが、これを拒否されることはまず無いということですね。WTOのお墨付きが出た形になりますから、WTOの判定は強力なのです。
もちろん今回の結果が委員会で採決されるまで、30日の猶予期間がありますから、その間に日韓が妥協点を見出せば、判定の結果を回避できます。
ただ、朝鮮日報の続報を見ると、韓国側がこの猶予期間の意味を、勘違いしている可能性があります。
「WTO反ダンピング紛争判定に韓日いずれも「勝利宣言」」朝鮮日報2019年9月12日
WTOは一審で韓国を支持したが、今回は「韓国の分析方式は不適切だ」として、日本を支持した。実際にこうした主張が認められ、関税が見直された例があるため、日本は重要な争点だと主張した。しかし、専門家は関税を引き下げるかどうかはまだ推移を見守るべきだと主張する。韓国が論理を補強し、WTOを説得すれば、関税を見直さなくてもよいからだ。
https://news.livedoor.com/article/detail/17069764/
いやいやいや。
WTOの紛争解決機関(DSB)は二審制で、今回の上級委員会が最終判定です。今から論理補強をしてWTOを説得って、WTOの紛争解決規則を何もわかってないじゃないですか。これ今からロビー活動してひっくり返せって言ってるんですかね? WTOでそれをやると?
まぁ、今の韓国は暴走状態ですから、何をやるかわかりません。各省庁は先入観に囚われず、緊密に対応していって欲しいですね。
■ついにホワイト国排除についてWTO提訴
そしてもう一つのWTO案件。日本が7月から実施した、フッ化水素など3品目の輸出管理を厳格化した措置について、韓国がWTOへの提訴を決定しました。「「日本輸出規制」WTO提訴…韓国政府、69日ぶりに剣を抜いた」
韓国政府は、関税と貿易に関する一般協定(GATT)最恵国待遇(1条)、数量制限の一般的禁止(11条)、貿易規則の公表および施行義務(10条)に違反したと見た。
http://japan.hani.co.kr/arti/economy/34345.html
日本は、1条と11条に関しては、21条の「安全保障における例外規定」で反論するつもりでしょうし、10条の公表と施行義務は、5時間説明会をやったことで反論するつもりだと思います。
とりあえず、今後10日以内に2国間協議を行うかどうかが焦点です。
「韓国のWTO提訴、日本の反論根拠は「GATT21条」」
WTOの紛争解決手続きは、まず2国間で協議を行う。日本は原則10日以内に、韓国からの協議要請に応じるかどうかを回答する。日本が協議に応じたら要請から30日以内に協議を開く。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20190912-OYT1T50024/
「輸出管理の強化」ということについて、当初誤解を与えそうな報道やコメントがあったことも考えると、協議においてはっきり、「ホワイト国認定において必要な手続き不備」を宣言した方がいいでしょう。特に2年ごとに開催するはずの「戦略物資会議」が開かれなかったのは、明白な事実ですので、韓国もこの点を否定はできないと思います。
問題は、これまで明らかにしてこなかった「輸出管理を巡る不適切な事案」というのが、どんなものなのかですね。結局は、これがしっかり示してこなかったせいで、混乱を招いている面があります。日本国民も知りたい事実でしょうし、是非「不適切な事案」というものを明示して欲しいですね。
一連の対立で、政府は国際的に日本が優位になったとみている。韓国による世界貿易機関(WTO)への提訴も「優遇措置から日本を除外しようとしている韓国が提訴できるわけがない」(外務省幹部)。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/538770/?page=2
心配なのは、この外務省側の見通しの悪さです。今の韓国に「できるはずがない」という先入観は極めて危険です。実際提訴に向けて動いてますし、しなかったら逆に韓国国民から突き上げを食らうでしょう。
いい加減、外務省は従来の楽観主義から脱却し、厳しく現状分析して、適切な対処をしていって欲しいですね。
2019-09-13 07:05:00Z
https://blogos.com/article/404184/
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