リバプールの最も重要な要素
フットボールにおいて、プレーの戦術面が今よりもはるかにシンプルで一次元的であった時代はそう遠い昔のことではない。SBには深い位置に残って守備をすることが求められ、前線に張るFWは中盤と連携することはない。両サイドの選手はサイドに開き続け、ドリブルで相手を抜き去ってからエリア内へのクロスを入れる形を狙っていた。
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実際に、現在のリバプールの個々における構成要素について、特にボールを保持している際のプレーについて分析を行ってみれば、ほぼすべての「伝統的」役割に何らかの形で変化が加えられ、より戦術的一体感のあるパターンへの適合が図られていることがわかる。現在のリバプールのシステムにおいて重要なのは、個々の構成要素がすべて一体となって機能し、各部分の単純な合計を上回る何かを生み出していることだ。
その構成要素の多くについてはすでにこれまでの章で論じてきた。ボールを前進させる上でCBやSBが果たす役割も個別に説明し、チームメイトにスペースを生み出すためFWが利他的な仕事に専念する形も考察してきた。そして、分析を行う必要がある構成要素の最後のひとつは、おそらくは最も重要なものとなるウイング(以下、WG)の役割だ。
このエリアでリバプールのファーストチョイスとしてプレーする選手が誰であるかは言うまでもない。左サイドはセネガル代表のサディオ・マネ、そして右サイドはエジプト代表のモハメド・サラーである。
この2人との契約を交わしたことは、現在のリバプールのスカウティング部門、補強部門の優秀さを示している。両者がそれぞれ2016年と2017年にクラブに加入した時点では、どちらも“絶対的存在”とは見なされていなかった。
サイドアタッカーを「逆サイド」に置く理由
実際のところサラーについては、若い選手の継続的な成長に不可欠なプレー時間を与えられなかったチェルシー時代を通して、プレミアリーグではすでに「失敗した」選手だと考える者が多かった。マネについても、報道によれば3400万ポンドという移籍金をプレミアリーグのライバルクラブに支払ったのは、払いすぎだと考えられていた。
だが、今になって考えてみればこの補強は、どのようなシステムを構築していきたいのか、そしてそのシステムに合致する選手を起用することの重要性をリバプールがすでに明確に意識していた証拠であったといえる。
ほぼインサイドの選手であるかのように内側へ切り込んでいくサイドアタッカーを置くという考え自体は何も新しいものではない。そういった動きを得意とする選手の最も有名な例は元オランダ代表のアリエン・ロッベンであり、バイエルン・ミュンヘン在籍時にはこの動きを一種の芸術にまで昇華させていた。
右サイドでボールを持ったロッベンがDFの外側を抜いていくかのような体勢を取りつつ、素早くインサイドへ切り返し、得意の左足で遠距離からゴールを撃ち抜く形は何度も見られた。実際のところ、サイドアタッカーを「逆サイド」に置く形はトップレベルの監督たちにとって常套手段となった。
つまり、左利きの選手を右サイドでプレーさせ、右利きの選手を左サイドでプレーさせるということだ。こうすると、チームの攻撃フェーズにおいてサイドアタッカーがボールを持った時、内側へ切り込んでハーフスペースを突いていくことがプレーの自然な傾向となる。ここから利き足側にボールを持てば、ピッチの大半が目の前に広がっている形だ。
(文:リー・スコット)
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定価:本体2000円+税
<書籍概要>
英国の著名なアナリストであるリー・スコットがペップ・グアルディオラの戦術を解読した『ポジショナルフットボール教典』に続く第二弾は、ユルゲン・クロップがリバプールに落とし込んだ意図的にカオスを作り上げる『組織的カオスフットボール』が標的である。
現在のリバプールはクロップがイングランドにやって来た当初に導入していた「カオス的」なアプローチとは一線を画す。
今やリバプールがボールを保持している局面で用いる全体構造については「カオス」と表現するよりも、「組織的カオス」と呼ぶほうがおそらく適切だろう。
また、クロップの代名詞だった激烈なプレッシングにも変化が生じ、もはやアイデンティティの主要部分ではなくなっている。
より効率的な形で試合のリズムをコントロールしようとしている最新のクロップ戦術が本書で赤裸々になる。
【了】
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