ウイルスは19世紀末に発見され、20世紀を通じて人や動物、植物などの病気の原因として研究が急速に進展した。21世紀に入るとゲノム(全遺伝情報)解析が容易になり、ウイルスの新たな情報が蓄積された。病原体としてのウイルス像は真の姿ではなく、極めて限られた側面だったことが分かってきた。
ヒメバチは、イモムシなどの体内に卵を産み付けて寄生する。卵は異物なのでイモムシの自己防衛機能が排除するはずだが、卵に含まれるウイルスが免疫細胞をまひさせることで生き延びることができる。そればかりか、イモムシにふ化した幼虫の餌になるよう糖も作らせるし、内分泌系を乱してチョウに変態するのを阻むことも分かっている。
殺虫剤からガを守るウイルスや、灼熱(しゃくねつ)の環境でも植物が育つように耐熱性を与えるウイルスも発見された。人間と共生しているウイルスがエイズの発症を抑えている可能性も注目されている。数百万年、数千万年にもわたって宿主と平和に共存してきたウイルスは守護者でもあったのだ。
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一方で、本来の宿主ではない動物種に出合うとウイルスは牙をむく。人間社会の広がりで地球は狭くなっており、未知のウイルスと人間が遭遇する可能性は高まっている。
牛海綿状脳症(BSE)が発生した際、食品の安全に関するリスクの評価や管理、危険性を正しく伝えるコミュニケーションの必要性が認識された。未知のウイルスも同じで発生の可能性や発生した場合の病気の重さ、感染性からリスクを評価し、発生前からの備えが重要になる。
だが、コロナウイルスによって起きたSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)を経験していたにもかかわらず、新型コロナウイルスへの備えはなく、泥縄式の対応になってしまった。
臆測や誤った情報がインターネット上で広がる「インフォデミック」が起きたのも、リスクコミュニケーションの観点からの備えが十分ではなかったからだ。
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