みどりの日である5月4日は、日本で初めて電車が走った日でもある。鉄道の開業では世界に大きく後れをとった日本だが、電車の導入では一気に世界に近づいた。今回はそんな日本の電車の歴史を、東京圏を中心に振り返ってみたい。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
● 日本初の電車を 走らせた電力の父
日本で生活する上で欠かせない乗り物、電車。都市部の通勤・通学輸送はもちろん、都市間輸送も多くを新幹線などの電車が担っている。実は今日、5月4日は日本で初めて電車が走ってから130年という節目にあたる。
日本初の電車を走らせたのは、日本の電力の父とも呼ばれる、工学博士・藤岡市助だった。工部大学校(東京大学工学部の前身のひとつ)を首席で卒業した彼は、アメリカやイギリスに派遣されて世界の先進的な電気事業を学び、白熱電球や電話機などさまざまな先端技術を日本にもたらした。その過程で手に入れたもののひとつが電車であった。
藤岡たちは上野公園で開催された第3回内国勧業博覧会の会場にレールを施設し、1884年の第2次アメリカ外遊の際に手に入れた電車の試運転を実施したのである。
内国勧業博覧会とは、国内の産業発展促進、輸出産業育成を目的として明治期に開催されていた博覧会で、新しい文明の発達と今後の展望を、広く世間に知らしめる絶好の機会であった。
当時の東京はまだ都心部まで鉄道が乗り入れておらず、レール上の客車を馬車が引く馬車鉄道が、新橋から銀座、日本橋、上野を経て浅草まで営業していた。
馬車鉄道の開業によって、都心部の移動は格段に便利になったが、動力が馬であるため、管理に手間や費用がかかるだけでなく、道路上に遠慮なくまき散らすふん尿がもたらす公害など、問題が多い乗り物であった。
これに対して電車はスマートな乗り物だとして江戸っ子たちにも評判となり、博覧会で一番人気になったという。興業的にも初期費用こそかさむが運転費用は少なく済み、有望な交通機関であるとして、大いに注目を集めることになった。
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