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Sunday, May 10, 2020

パンデミック克服ではIoTが主導的役割を果たす - EE Times Japan

 国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の一つに、感染症拡大との戦いに向けた準備を整えるという点がある。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)が加速している今ほど、この目標が現実の問題に直結したことはなかっただろう。

 こうした感染症を打ち負かす上で重要な役割を担っている技術の中でも、特にIoT(モノのインターネット)は、人類の“技術兵器”の重要な一部だといえる。例えば、コスト削減や、自動や遠隔での介護や診断、新たに利用可能になった患者データなどは、IoTがヘルスケア分野にもたらしたさまざまな変革の中のほんの数例として挙げられる。また、疾病管理の分野では、IoT技術を採用することで、強力なソリューションを提供することが可能だ。

 IoTは通常、「センサーとワイヤレスマイコンで構成されたネットワーク」と定義されるが、これは単に、IoTの物理層のことを意味する。総体的に見るとIoTは、大規模な分散コンピューティングだといえる。約240億台のスマートなコネクテッドデバイスを使用することにより、かつてないほどの膨大な量のデータを収集し、演算を実行できるようになる。パンデミックへの対応では、データ量が多いほど、より優れた意思決定や対応計画が可能になる。いずれも、感染症の拡大を阻止/制御する上で、必要不可欠な要素である。

接触追跡

 パンデミックが拡大する中、最も緊急を要する課題として挙げられるのが、感染者と接触した可能性がある人物の追跡と隔離だ。これは、感染症を制御するための一つの方法とされている。従来の接触追跡技術では、対象者に面接して質問するしか方法がなかった。これでは、膨大なコストと時間を要する上、人為的ミスを引き起こす可能性も高い。人口密度の高い都市部で人々が移動することによって、問題がさらに悪化し、従来の方法の弱点が目立っている。

 このような従来の接触追跡に代わり、ワイヤレス技術(RFID、Bluetooth Low Energy[BLE]、GPS、Wi-Fiなど)を利用して詳細な位置追跡を行う方法がある。ワイヤレス技術は、確認された感染症例との交流期間や近接性に関する情報を提供することができるという点で、従来の手法とは異なる。

 BLEは、現在最も広く普及しているワイヤレス規格の一つであり、比較的高い精度で位置追跡機能を提供することが可能だ。また、Wi-Fiや携帯電話の位置情報と比べて、桁違いに高い精度で近接性を検出することもできる。このような高い精度は、追跡した接点を分類したり、より接触度の高い事例への対応を優先順位付けしたりする上で、非常に重要である。

 パンデミックの終息が見えない中、Bluetoothタグを導入して対応計画を向上しようとするソリューションもある。これは、大局的な観点から見ると、人口密度の高い都市部において、数百〜数千個規模のBluetoothタグやスマートデバイスを導入して通信させるということになる。この場合、Bluetoothデバイスをシステム全体で最適化することによって、メッセージのコリジョン(衝突)の問題を克服する必要がある。デバイスが感染者との交流関係を記録することができず、感染の可能性が高い接触を見落とす恐れがあるためだ。

バイオセンサーと臨床現場即時検査

 パンデミック対応におけるもう1つの重要なタスクとして、臨床現場即時検査(POCT:Point of care testing)が挙げられる。

 現在、新型コロナウイルスに対応した検査キットが不足しているために、新型コロナウイルス関連のデータ調査に対して、「氷山の一角にすぎないのではないか」という印象を与えてしまっている。また、世界の辺境地や発展途上国において基本的に必要とされているのが、コスト効率が高く、迅速に導入可能な診断用デバイスだ。こうした地域では、熟練の医療従事者や、設備の整ったヘルスケアセンターが不足しているために、感染拡大が制御不能に陥る恐れがある。

 診断用デバイスには、高いコスト効率だけでなく、信頼性や精度の高さ、携帯可能であること、使いやすさなども必要だ。さらに、完全あるいは部分的な使い捨てが可能であること、容易に再現可能であること、小型化されていることが望ましい。これらの必要条件を十分に満たしているのが、クラウド接続されたバイオセンサーだ。

 英国Imperial College Londonの研究者グループは今回、感染症の早期検出が可能なLab-on-a-Chipのデモを披露している。患者から抽出したサンプルを使い捨てカートリッジ上に置くと、30分以内に検査が完了するという、非常にシンプルな患者体験を実現したという。

画像:Silicon Labs

 技術的観点から見ると、その仕組みは次のようになる。まず、Lab-on-a-Chipデバイス上に、カートリッジが配置されている。Lab-on-a-Chipデバイスは、イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)センサーアレイを備えたCMOSチップを搭載し、マイコンに接続されているため、Bluetooth経由でクラウドまたはスマートフォンアプリにデータを伝送することができる。

 ここで使われているISFETバイオセンサーは、MOSFETと非常によく似ているが、メタルゲートがイオン感応性の高い構造に置き換えられている点が異なっている。ISFETバイオセンサーは、溶液内のイオン濃度を測定できる。このセンサーは、チップの表面上で、化学反応のイオンイメージングを実行するため、DNA増幅をリアルタイムで監視することが可能だ。

ISFETバイオセンサーの構造 出典:Silicon Labs

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