各地で学校再開が進みつつあります。そんななか、もっとも重要な課題はなんだと思いますか?
新型コロナウイルスの感染防止、それから、子どもたちの心のケア、いじめ防止など、重要なことはたくさんあります。これらに加えて、やはり学校は教育・学習するところですから、子どもたちの学びをどうしていくかに注目する必要があります。一言で申し上げるなら、「子どもたちの学習意欲や関心、好奇心が高まる学校になっているでしょうか?」そこが重要なクエスチョンだと思います。
ところが、地域によっては、ともかく授業時間の確保に躍起にやっているかに見える例が散見されます。土曜授業をやたら増やしたり、夏休みを大幅に短縮したりする動きです。乱暴ですが、ざっくりまとめると、これは学習や授業の「量」を重視する考え方です。
ですが、ここで問われないといけないのは、「質」のほうです。なぜなら、おもしろくもない授業を土曜や猛暑のなかやられても、子どもたちにとって、たまったもんじゃないから、です。質を伴わない量の拡大は、子どもたちの意欲や関心という観点では、逆効果だと思います。
■与えるばかりの教育を見直すときなのに・・・
実は、この問題は、いまに始まったことではありません。休校中も大量の宿題が出て、子どもたちも保護者も困り果てた。そんな声もたくさん聞こえてきます。親鳥がひな鳥にエサを与えるかのごとく、与えよう、与えようという教育にまた邁進するのでしょうか?
しかも、事態はより深刻です。なぜなら、3ヶ月近くも休校が長引きましたから、このあいだ、子どもたちの学習意欲や学びの進ちょくという意味では、差が広がっている可能性が高いからです。低学力層はコロナ前よりも、しんどくなっています。学校再開後は、普段の学校よりも、授業づくりや学級運営などの難易度は、はるかに上がっていると見るべきでしょう。
こんなことは、なにもわたしが書かなくても、現場の先生方は、百の承知のことかと思います。ですが、たいへん悩ましいのが実態です。
■授業準備の時間がない先生たち
データを少し確認しましょう。愛知教育大学等が全国の教員に対して実施した大規模な調査(2015年実施)によると、仕事の悩みとして「授業の準備をする時間が足りない」と答えた教員は、小学校94.5%、中学校84.4%、高校77.8%にもなります(図)。「仕事に追われて生活のゆとりがない」という教員も7割前後に上ります。
「子どもが何を考えているかわからない」という悩みも小学校の約25%、中高の4割近くに上ります。
これほど、先生たちは忙しく、余裕がなく、また生徒理解でも苦しんでいるのです。これで、果たしていい授業ができるでしょうか?
これはコロナの前の話です。しかも、今回の学校再開では、2~3ヶ月もブランクがあってのことですし、そのあいだ、ほとんど子どもたちと先生たちの間でコミュニケーションを取れていない学校も多いですから、6月は関係づくりから再スタートです。しかも、学校再開後は、先生たちの仕事は急増しています。
●消毒作業・・・教室、ドアノブ、洗い場、楽器など。
●検温、保健・・・家で体温を測ってこない子やマスクを忘れた子などへのケア。
●清掃作業・・・従来は児童等がやっていたトイレ掃除なども、感染が心配ということで教職員がやっているケースも。
●事務作業・・・これこれの感染症対策をしましたよ、という報告作成など。
●不登校対策・・・生活リズムが戻らず来たくない子、感染が心配で登校したくない子たちへのケア。
●授業時間の増加・・・学級を2つに分けて同じ授業を2回やる。平日7時間目まである。土曜授業など。
働き方改革なんてどこ吹く風?という感じかもしれません。すべての学校がこうだとは申し上げませんが、先生たちの負担を増やす一方では、真に必要なところに(=授業をおもしろく、質の高いものにしていくことなどに)、時間もエネルギーも十分には向かいません。こんな状態ですから、授業づくり等の難易度は、一層上がっている、と申し上げているのです。
■コロナ前から、子どもたちの動機付けは苦手としていた
次のデータはOECDのTALISという調査から抜粋です。エストニア、フィンランド、韓国、シンガポールなどを特出ししているのは、日本と同様に、子どもたちの学力が高い国だからです。いわば日本のライバル国・地域ですね。
こちらのデータは、「勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする」について、「かなりできている」、「非常によくできている」と中学校の先生が回答した割合を比べています。日本の若手(5年目以下)はたいへん自信がない状態です。ちなみに、いま日本各地の小中学校などでは、若返りが起きています。大量採用で若手の先生が急増しているのです。
文字が小さくなってしまいますが、ほかの設問も含めて、より詳細なデータも掲載しておきます。先ほどのものに加えて、「生徒の批判的思考を促す」、「生徒がわからない時には、別の説明の仕方を工夫する」なども、日本は軒並み低いことが判明しています。
外国の先生がどうして自信たっぷりなのかは謎ですが、「全くできていない」、「いくらかできている」、「かなりできている」、「非常に良くできている」の4択で、あとの2つにチェックした割合を比べていますから、「いくらか」と回答した人のぶんはカウントされていないことには注意してください。
日本の先生たちが謙虚だ、という説明を文科省等もすることがありますが、本当にそうでしょうか?その可能性はゼロとは言えませんが、もっと重いのは、前述のデータとも照らしあわせると、日本の先生たちは授業準備する時間や勉強する余裕も枯渇していて、授業に自信をもてていないという事実です。
この記事でわたしが申し上げたいことは、推測していただいたと思います。
コロナ前からも、日本では、生徒の動機付けや思考力を高めることに苦手意識がある先生、あるいは十分にできていないという感触だった先生は多いわけです。コロナのあと、今回の学校再開後は、一層この問題が深刻になる可能性が高いと予想できます。これでは、学習意欲や関心が低くなってしまった子、あるいは学習に遅れがちな子を十分に引き上げる授業になるだろうか、おおいにクエスチョンです。
■どうするか?
では、どうするか。長くなるので、ここでは簡潔に3点だけ申し上げます(詳しくは文章末記載の参考文献などもご覧ください)。
第一に、授業時間という量ばかり追い求める教育行政は、さっさと卒業してほしい、ということです。いまは量を確保する以前の問題、質が危機的な状況かもしれないということに、もっと注目してほしいと思います。ですから、土曜授業をやるヒマがあったら、先生たちに授業準備をしたり、勉強したりする時間を与えよ、と申し上げたいと思います。
第二に、子どもたちのこころのケアや授業準備、それから校内外の研修などで授業力や生徒理解力を高めたりすること以外の負担は、減らしていくべきです。具体的には、消毒作業や清掃作業などは外注していくことを、文科省、教育委員会等は真剣に考えて予算化してほしいと思います。もちろん、書類だけ作らせて、やってます感を出す、アリバイづくりをするみたいなことも、やめてください。
第三に、各学校、先生たちは、本業である授業で、子どもたちを本当に伸ばしているのか、取り残されている子は大丈夫か、よくよく振り返ってほしいです。そして、若手、ベテランを問わず、悩みを相談しやすい職場、アドバイスし合える職場にしてください。
部活動のことを悪く言うつもりはありませんが(意義もよく承知していますが)、部活動を熱心にやる時間よりも、まずは授業で子どもたちを伸ばしてください。久しぶりに部活ができるようになって、生徒も先生も嬉しいという気持ちはわかりますが、優先順位を取りちがえないようにしたいですね。
休校が長引いて、学校生活や学びに飢えている子もいます。学校再開は、どんな授業をしていくか、チャンスでもあり、質がおおいに問われていると思います。
(参考文献)
妹尾昌俊『教師崩壊』
妹尾昌俊『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』
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May 27, 2020 at 02:34PM
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