2020年春の5G商用サービス開始を予定しているNTTドコモは、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を通じてパートナー企業との5Gビジネス創出を進め、企業の5Gに対する漠然とした期待感を、具体的なビジネス開拓につなげる取り組みに力を入れている。そのドコモが、5Gをビジネスに生かす上で重要なポイントはどこにあると見ているのだろうか。5G・IoTソリューション推進室 ソリューション営業推進 担当部長 エバンジェリストの有田浩之氏に話を聞いた。
3200以上の企業・団体とビジネス創出
5Gに対する漠然とした期待は非常に高いものの、ビジネスへの具体的な活用はあまり見えていないという企業は多いだろう。そうした5Gが抱える大きな課題に、積極的に立ち向かっているのがドコモだ。同社は2017年に「5Gトライアルサイト」を展開するなど、GSMAで5Gの標準化作業が進められている最中から5Gのユースケース開拓に積極的に取り組んできた企業の1つでもある。
実際NTTドコモは、パートナーとなる企業や自治体と共同で、実際の5G環境を活用したビジネス創出を実現する環境を提供するべく、2018年2月から「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」を展開している。有田氏によると、このプログラムに参加する企業など、「5Gで何かやりたいが、5Gって何なの?」という漠然とした状態で問い合わせてくることが「結構な割合」(有田氏)を占めるとのこと。そこからドコモ側と5Gに関して話し合いをした上で、興味を持ってもらった企業などに参加してもらう形になるという。
ドコモ5Gオープンパートナープログラムに参加している企業は既に3200の企業・団体に上っており、その業種も非常に幅が広い。有田氏によるとこのプログラムは「Webではなく、紙に社判をついて申し込んでもらう」仕組みで、それなりにハードルが高いものでもあるのだが、それにもかかわらずこれだけ多くの企業などが参加しているということは、それだけ5Gに対して高い関心が寄せられているためだといえる。
だがそうした企業の多くは、「5G」という切り口で相談してきているものの、実際のところ、モバイルで業務効率化を実現しようとは考えていなかった企業が多いそうで、「5Gはモバイルの活用による業務効率化のきっかけになっている」と有田氏は話す。それゆえ5Gが注目されて以降、ドコモの法人営業も企業のフィーチャーフォンをスマートフォンに変えるといった携帯電話主体の内容から、企業や地域の課題解決に、いかにモバイルを活用するかという内容へと変化、より幅広い顧客を対象にビジネスの話ができるようになったという。
実は最もニーズが高かった映像伝送
そしてドコモ5Gオープンパートナープログラムの取り組みの事例からは、5Gが持つ「高速大容量通信」「低遅延」「多数同時接続」といった3つの特徴の中でも、実は高速大容量通信を生かした映像伝送の利用が非常に多いことが見えてきたと、有田氏は話す。ドコモは2019年9月に5Gのプレサービスを開始して以降、既に5Gを活用した300以上の実証を実施しているが、「実例から何が課題解決につながっているのかと整理していくと、実は映像伝送が中心になっている」(有田氏)というのだ。
そうしたことから同社では、高速大容量通信による映像伝送を軸としながら、そこに低遅延による遠隔制御や、多数同時接続によるIoT、AIなど複数の技術を掛け合わせることで、5Gの利活用の幅を広げる取り組みを進めているのだそうだ。
例えば4Kなどの高精細映像伝送と、AI、ドローンを掛け合わせることで、これまで人が高い所に登り、肉眼で確認してきた、橋や鉄塔などインフラの点検などがドローンでできるようになり、大幅な効率化が実現できるようになる。また、それにARグラスを掛け合わせ、ドローン操縦者がARグラスに映し出された映像を見ながら操縦することで、目線の移動が少なくなり、より安定した操縦ができるなどのメリットが生まれてくるという。
それは5Gのビジネス活用が最も早く進むとみられている、製造業でも例外ではない。工場における5Gの活用として注目されているのは、多数同時接続を生かして工場内のあらゆる機器に通信機能を備えたセンサーを取り付け、そこからデータを収集することで異常をいち早く検知するなどして、機器のパフォーマンスを向上させることだ。
だが有田氏よると、機器にセンサーを取り付けただけでは、傷や異物などの異常検知が難しいといった課題が出てきており、そうした検知のためにも映像伝送が必要とされているのだという。また今後、工場の無人化や、人とロボットが協調して作業する環境などを実現する上では、映像によって機器や人の動きを解析することが求められることから、工場でもIoT、AIに加え5Gの映像伝送の掛け合わせが必要になってくるというのだ。
ちなみにドコモは、2019年にオムロン、ノキアグループと工場などにおける5G活用の実証実験を実施すると発表している。この取り組みについても有田氏は「まずは安全性の担保と作業効率化の実現だと考えている」と話し、作業員の動きを解析して熟練者との違いをフィードバックするリアルタイムコーチングなど、映像伝送を活用した実証に先行して取り組むことになるとしている。
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ローカル5Gとの競合や世界的な出遅れをどう見るか
一方で、ドコモが5Gをビジネスに活用していく上では、いくつか課題もあるように感じる。1つは5Gのエリアであり、先んじて2020年3月27日に5Gの商用サービスを開始すると発表したソフトバンクも、実際に5Gが利用できるエリアが点在的で、非常に狭い。それだけに、5Gのビジネス活用を進める上ではエリア展開がどうなるかが非常に気になる所だが、有田氏は「5Gでは使われる所をエリア化する」ことが重要だと答える。
特に法人で5Gを活用する場合、必要な場所にだけネットワークを構築することで対応がしやすく、面的なカバーが必ずしも必要ないのは確かだ。一方で広い場所での利活用を想定している自治体などの場合は、既存の4Gの活用を中心としつつ、その中の特定の場所に5Gネットワークを構築することで、映像伝送の高精細化ができるなど改善できる事例が増えると説明し、理解してもらっているという。
ただ限定されたエリアでの5Gネットワーク構築となると、ローカル5Gを手掛ける事業者と競合する可能性も高いが、有田氏はローカル5G事業者とは「競合と協業、両方の可能性があると思っている」と答えている。実際ドコモにも、ローカル5Gでやるべきかどうかという相談が来ているそうだが、話してみると利用シーンによってどちらを使った方がよいか、分かれるケースが出てきているのだそうだ。
ローカル5Gの事業者は確かにビジネス面で競合になり得るものの、逆にローカル5Gだけではできない携帯電話会社ならではの強みもある。そうしたことからコンサルティングなどで、ローカル5Gの事業者に協力や技術支援などをしていくこともあるのではないかと、有田氏は話している。
また、海外では2019年より5Gの商用サービスを開始していることから、コンシューマー向けだけでなく法人向けの5G活用に関しても、海外に比べ大きな後れを取っているのではないかという声も少なくない。だが有田氏は、「海外の事例を真剣に調べてみたが、スマートマニュファクチュアリングや自動運転がけっこう多い。弊社が取り組んだ300の実証事例を見ると、海外では生まれていないものがたくさんありバリエーションに富んでいる」と回答、ユースケース開拓には積極的に取り組んできたこともあって、海外から後れを取っていることはないとの認識を示している。
“黒子”として企業をつなぐ役割を強化
では、ドコモが5Gの商用サービスを開始した後、どのような形で5Gを活用したサービスが表に出てくるのだろうか。先にも触れた通り、同社ではこれまで300の実証実験に取り組んできたが、それら全てが商用サービス開始と同時に、実際のサービスとして登場するわけではないという。
サービスの提供形態に関しても、従来はドコモが主体となって企業にモバイルを活用したソリューションを提供してきたが、5Gでは企業が他の企業にサービスを提供する「B2B」ではなく、サービス提供を受けた企業がさらにその先の消費者や企業、自治体などにサービスを提供する「B2B2X」のスタイルが主流になると有田氏は説明する。ドコモのブランドでサービスを提供することももちろんあるというが、同社がアセットだけを提供し、それを活用して別の企業がサービスを提供することもあるという。
また有田氏は、「新しいドコモの立ち位置は、いろいろな人を結び付ける役割になるのでは」とも話す。つまりドコモがB2B2Xの“真ん中のB”となり、例えばベンチャー企業の優れた技術があった場合、その品質を向上させ、なおかつ他の企業や自治体などとマッチングして具体的なサービスの実現につなげるなど、企業と企業との間を取り持つことが、5G時代の法人ビジネス拡大につながると考えているようだ。
取材を終えて:ノンスタンドアロンでも5Gは法人向けに活用できる
現状、5Gのビジネス活用といえば、工場での利用を中心とした低遅延や多数同時接続への関心が非常に高い一方、高速大容量通信はコンシューマー向け用途が主体になるという見方が一般的だ。それだけに、実は映像伝送、ひいては高速大容量通信が最も重要な役割を果たしているという有田氏の説明には意外性があったのは事実だ。
だが裏を返せば、それはノンスタンドアロン運用であっても5Gが十分法人向けに活用できることでもあり、それだけ5Gの法人活用は早く進む可能性があることも示している。まだ同社の5G商用サービスが始まっていない現状ではその姿は見えていないものの、多くのユースケース創出に力を入れてきただけに、そう遠くないうちに何らかの形で具体的なサービス事例が披露されるだろう。
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