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Thursday, January 30, 2020

世界初、高い生着率の血管付きミニ乳房を再構築 - PR TIMES

【研究成果のポイント】
◆ さまざまなサイズの血管構造を持ち、血行がみられる脂肪組織ボール(以下、ミニ乳房)を患者の細胞を用いて世界で初めて構築。小動物への移植実験で高い生着率(移植した組織が術後に機能している割合)を示すことを確認しました。

◆ これまで乳がん摘出後の乳房再建術では、術後の変位や周囲の組織線維化(硬くなり変形すること)を予防したシリコン製インプラントが主に使用されていましたが、2019年7月、悪性リンパ腫へとの関連性が疑われたため販売停止となりました。また、患者の脂肪細胞を採取して注入する自家組織再建術も行われていますが、まだまだ問題があり、患者毎に生着率にバラツキがありました。さらに、移植にあたっては患者へ大きな負担が生じることが課題でした。

◆ 本研究成果で作製したミニ乳房は機能的な血管構造を有するため、脂肪細胞への栄養と酸素の供給が可能となり、現在使用されている脂肪細胞注入やインプラントと比べ高い生着率を示しました。また、ミニ乳房は注射器での移植が可能なため、(体内でミニ乳房同士の集合体を形成)患者への負担を大きく軽減でき、さらに、独自培養技術により患者の脂肪組織を体外で複製することにより、自由に移植量や移植時期を調節することも可能になります。したがって本研究成果は、従来の乳房再建術に代わる新しい乳房再生医療として期待されます。

血管付きミニ乳房の作製イメージと移植3ヶ月後に摘出したミニ乳房集合体の写真血管付きミニ乳房の作製イメージと移植3ヶ月後に摘出したミニ乳房集合体の写真

■ 概要
 大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授および、凸版印刷株式会社(先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座(※1))のFiona Louis(フィオナ ルイス)特任研究員、京都府立医科大学大学院医学研究科形成外科の素輪善弘講師の研究グループは、独自の組織工学技術により患者の細胞を用いて機能的な血管構造を有するミニサイズの乳房の再構築に世界で初めて成功し、小動物への移植実験で高い生着率を示すことを確認しました。

■ 研究における役割
・大阪大学 大学院工学研究科 松崎 典弥教授
 研究統括
・凸版印刷株式会社 (先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座)
 大阪大学と共同開発した独自の沈殿培養技術を用いた脂肪組織の作製
・京都府立医科大学 素輪 善弘講師
 ヒト脂肪細胞の提供と脂肪組織の移植評価

■ 研究の背景・詳細
 これまで乳がん摘出後の乳房再建術では、シリコン製のインプラントを用いた再建が主流でした。しかし、日本の健康保険で唯一認可されていたアラガン社製のインプラントがブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)という疾患の発生に関連しているとして、アメリカ食品医薬品局(FDA)の指示で2019年7月24日に世界中で販売停止、自主回収となったことが大きな話題となりました(※2)。この重大な事態に対し、一般社団法人日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会は緊急声明を出しており(※3)、現在は代替となる旧型のインプラントが一部利用できるようになりましたが、破損や波うち変形、被覆拘縮等の合併症を引き起こすリスクが不安視されています。また、患者自身の脂肪細胞を採取して注入する自家組織再建術も行われていますが、その生着率は患者背景でバラツキがあり課題になっています。さらに、移植するたびに患者に負担が生じるという問題を抱えていました。
 今回、松崎教授らの研究グループは、I型コラーゲンのマイクロ線維(CMF)を用いた独自の沈殿培養技術(※4)を応用することで、血管網を持つミニサイズ(約900 μm)の乳房の再構築に成功しました。CMFが脂肪細胞と脂肪由来幹細胞、さらには血管内皮細胞の足場として機能し、実際に血管網が細胞へ栄養と酸素を供給します。およそ100個のミニ乳房を小動物皮下へ移植することで自発的に集合体を形成し、従来の吸引脂肪組織に比較して約2倍高い生着率が確認されました。患者由来の細胞を用いるため、高い安全性が期待されます。

■ 本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
 本研究成果は、従来の脂肪細胞注入法や販売停止となったインプラントに代わる、高い安全性と生着率を有する新しい乳房再生医療技術となることが期待され、今後、実用化を目指して研究を進めていきます。

■ 特記事項
 本研究は、JST未来社会創造事業(※5)で得られた成果を応用して行われました。
 本研究の成果は、2020 年 3 月 12日(木)~14 日(土)にパシフィコ横浜で開催される「第19 回日本再生医療学会総会」にて発表する予定です。

※1 先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座
 大阪大学と凸版印刷は、「先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座」を2017年に設置し、3D細胞培養技術に関する基礎研究を同研究科 松崎典弥教授と共同で行っています。

※2 アラガン・ジャパン株式会社HP「2019年8月1日 ブレスト・インプラントおよび組織拡張器自主回収につきまして」 https://www.allergan.jp/ja-jp/patients

※3 一般社団法人日本乳房オンコプラスティックサージェリー学会「学会緊急声明 アラガン社製自主回収・販売停止について(アラガン・ジャパン)」 http://jopbs.umin.jp/general/
 
※4 I型コラーゲンのマイクロ線維(CMF)を用いた独自の沈殿培養技術
“3D collagen microfibers stimulate the functionality of preadipocytes and maintain the phenotype of mature adipocytes for long term cultures”, Fiona Louis, Shiro Kitano, João F. Mano, Michiya Matsusaki*, Acta Biomaterialia 84, (2019), 194-207.
 細胞と同じマイクロメートルレベルの足場材料を細胞と一緒に培地に分散し、遠心分離により沈殿させて培養する新しい組織工学技術。従来トップダウン法による組織工学技術では、ミリメートルからセンチメートルの大きな足場材料にマイクロメートルの細胞を注入していたため、足場材料内部に均一に導入させることが困難でした。沈殿培養技術は、細胞と同じサイズの足場材料を細胞と一緒に分散して組織化するため、内部まで均一に細胞を導入することができます。

※5 JST未来社会創造事業
 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)は、平成29年度より、社会・産業ニーズを踏まえ、経済・社会的にインパクトのあるターゲット(出口)を明確に見据えた技術的にチャレンジングな目標を設定し、実用化が可能かどうか見極められる段階を目指した研究開発を実施する事業として未来社会創造事業を開始しました。 https://www.jst.go.jp/mirai/jp/index.html

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* 本ニュースリリースに記載された内容は発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがあります。

以  上

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January 30, 2020 at 12:04PM
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